ある男のところに、娘を名乗る少女が現れる。
彼女は本当の娘であるのか。彼女は何者か。そして、何を秘めているのか。
人間のホラーであり、そして怪異のホラーであるようにも思う。
そしてレビュータイトルのことばは、ある種主人公につきまとうことばでもあるように、読んだ上で思っている。
人でなしとは、なにか。
人でなしは人になりかかり、だからこそ人でなしになることを選んだ。
これ以上のことを書けば間違いなくネタバレになるので控えるが、そういうことなのだろうと個人的には思っている。
ぞっとする。ぎりぎりと首を絞められていくかのような恐怖と、人間模様は必見です。
ぜひご一読ください。
リアルな生活・人間の描写に裏打ちされたホラーを書かれる作家さんですが、今回も生々しい恐怖でした。実際にありそう、という意味に加えて、欲望がギラつく、という意味での生々しさでもあります。
まず、主人公である皐介からして怖い。高額商品を扱うマンションディベロッパーである彼は、冒頭から地域の性格、客の性格や懐具合を鋭く観察して「在庫」をさばいていく辣腕ぶりを見せつけます。客に見せる誠実ささえ計算のうち、という冷徹さ、社内での立ち回りや女性関係からも漂う裏表に空恐ろしさを感じ──危険な男に目が惹き付けられたところで、皐介に運命の出会いが訪れます。
「あなたの娘」を名乗る(?)幼女、きよちゃんが現れるのです。
身に覚えがあるとはいえ突然のこと、しかも不吉な死の気配を纏った幼女に、けれど皐介は献身的なまでの愛情を捧げて良き「お父さん」として振る舞い始めます。きよちゃんの影に見え隠れする怪異からも、欲望渦巻く人間の思惑からも。
人知を超えた存在が恐ろしいのはもちろんのこと、上述の通り人間の業も情も欲も生々しく苛烈で、それらがせめぎ合う様、騙し合いや脅し合いは手に汗握ります。一瞬も油断ができない状況の中、皐介は娘を守り切ることができるのか!? 有能かつ狡猾、危険な男が娘のために手段を選ばず戦い抜いた果てにあるのは──
親の愛とは、そもそも強いもの。そして、その愛を抱くのもその対象も、尋常でない存在だとしたらどうなるのか──結末を確かめてくださいますように。
レビュー表題は嘘ではない。
まったくもって嘘ではない。
しかしとんでもないものを書いて出して下さったものである。
自分は筆者の作品に全幅の信頼をおいているので、まあちょっと一緒にハマってくださいませんかね。
一言でいえば徹頭徹尾ヒトデナシが文字通りのヒトデナシとなり、ヒトデナシを実行してゆくという物語。怪奇部分も相当なホラーであるが、人間怖いという意味でも相当である。
映像喚起力の極めて高い、エンタメホラー、と言えば通じるだろうか。
ネタバレせずしてこの魅力を伝えるにはどうしたものかと小一時間頭を抱えておりますが、とにかく出てくる人間が全員やばい。
よき女性たちよ、逃げて下さい。
と、言いたかった。
とにかく、こいつらは近寄ったらあかん。
読者は近寄ってきましょう。
圧巻ですから。
ひとつだけ、皐介に思ったこと。
「あんた、手放せないくらいさみしかったんやな」
ホラーですからね。やっぱり人が死んじゃったり、怖いめに遭ったりもする訳ですよ。
でも、それよりも何よりも、有能で倫理を欠いた主人公(しかもイケメン)が次に何をしでかすのか……そのあたりに恐怖を感じたのは、きっと俺だけではないはず。
女性に対しても奔放な主人公(だってイケメン)も、突如として押し付けられた娘には無条件の愛を注いでいるのだから、やはりバランスの悪さに恐怖を感じてしまいます。
娘を護るために手段を選ばない主人公(やっぱりイケメン)の危うさこそが、この作品の魅力じゃないかと思うんですよ。相対的に他の登場人物が、まるで仏のように見え……あ、いや、けっこうな曲者ぞろいだな。(でも、主人公を取り巻く女性たちだけは、皆まるで菩薩のよう)
一筋縄ではいかない人(例外あり)たちの戦いはどこへ向かうのか……ぜひご自身の目で確かめてください。
過激なゴア表現もありませんし、過度に怖がらせる演出もないので、ホラーが苦手な方もぜひどうぞ。
マンションディベロッパーの優秀な営業の皐介。彼のもとに「あなたの娘です」との手紙を携えた幼女きよが現れた。人の死を予言するような言葉を残すきよだが、本当に自分の子かもわからないまま、皐介は父親としての愛情を傾け始める。
一方で身の回りでは謎の人死にが続き、きよに取り憑いている何かを感じて調べ始めるが……。
第1話から早々に皐介の営業手腕が垣間見えるのですが、まず仕事のできる男の怖さを堪能することができます。「怖さってそこ?」って思われるかもしれませんが、あの口の上手さはある意味ホラー。私の人生でもこういう人に落とされたことがあるのではなかろうか……なんてちょっとビクリとしてしまいました。
皐介の口の上手さ、世渡りの上手さはプライベートでも活かされ、女性関係は奔放。しかし誰でもいいわけではなくしっかりいい女を見極め愛情を向けるさまが、女たちも読者も惹きつけ鷲掴みにされてしまうのでしょう。
怪しい裏の世界もちらりと覗かせつつ、『きよに取り憑く何か』を追った先のラストは、「これぞ」と「こうくるのか」がない交ぜの複雑ながらも小気味よい満足感でした。
正統派ホラー、恨みや情念、人間の残酷な恐ろしさ。読み進めるほどに本当の怖いものは何であるのか、様々なものが思い浮かぶゾクゾク感がたまりません。ホラー好きな方はもちろん、少し苦手な方も人間ドラマを読んでみるつもりでディープな世界を覗いてみてほしいと思います。
あっ。でも推したいのは、「直前まで不穏な言葉を発していたアナタはどこへいったんですか?」と思わず突っ込みたくなる、きよちゃんにはデレデレ甘々の皐介パパです♡