危険な男が愛に目覚める時

 リアルな生活・人間の描写に裏打ちされたホラーを書かれる作家さんですが、今回も生々しい恐怖でした。実際にありそう、という意味に加えて、欲望がギラつく、という意味での生々しさでもあります。

 まず、主人公である皐介からして怖い。高額商品を扱うマンションディベロッパーである彼は、冒頭から地域の性格、客の性格や懐具合を鋭く観察して「在庫」をさばいていく辣腕ぶりを見せつけます。客に見せる誠実ささえ計算のうち、という冷徹さ、社内での立ち回りや女性関係からも漂う裏表に空恐ろしさを感じ──危険な男に目が惹き付けられたところで、皐介に運命の出会いが訪れます。

 「あなたの娘」を名乗る(?)幼女、きよちゃんが現れるのです。

 身に覚えがあるとはいえ突然のこと、しかも不吉な死の気配を纏った幼女に、けれど皐介は献身的なまでの愛情を捧げて良き「お父さん」として振る舞い始めます。きよちゃんの影に見え隠れする怪異からも、欲望渦巻く人間の思惑からも。
 人知を超えた存在が恐ろしいのはもちろんのこと、上述の通り人間の業も情も欲も生々しく苛烈で、それらがせめぎ合う様、騙し合いや脅し合いは手に汗握ります。一瞬も油断ができない状況の中、皐介は娘を守り切ることができるのか!? 有能かつ狡猾、危険な男が娘のために手段を選ばず戦い抜いた果てにあるのは──

 親の愛とは、そもそも強いもの。そして、その愛を抱くのもその対象も、尋常でない存在だとしたらどうなるのか──結末を確かめてくださいますように。

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