世界に穴を開けてしまうバグとして排除されそうになる少女。好奇心や正義感から彼女を助ける仲間達が追手から逃げながら、夢である虹を求めて冒険する物語です。
王道の展開でありつつ、独自設定の面白さがあります。
バグ、スキル、変わらない空、境界を越えると一変するマップ。
フルダイブVRゲーム、あるいはゲーム世界に転生したような世界が舞台です。
しかしプレイヤーのメタ視点はなく、あくまでファンタジー世界の人々の視点で描かれています。不自然さを考察する味わい深さを感じられました。
個性的で魅力的なキャラクターのかけ合いも微笑ましく楽しいです。
熱い友情、理不尽に立ち向かう覚悟。アクションシーンも読み応え抜群。
幻想的な景色には息を呑み、説得力のある設定と描写に感心します。
隅々まで丁寧に作り込まれたオススメの作品です。
この物語の舞台は、一見すると地球とはかけ離れたハイファンタジーの世界。
常に夜明けや夕焼けの色で固定された空。どこからともなく、そして絶え間なく花びらが降り注ぐ場所。鳥竜や角に花を咲かせる鹿、毒の蜜を集める蝶などの不思議な生物──描かれる情景は美しく幻想的で、住人たちの暮らしの描写も細やかで、実際にその世界に入り込んだかのような気分になれます。
が、幻想世界に浸り切る前に読者の意識に引っかかるのが《バグ》《プログラマ》《MP》といったワードです。登場人物たちは世界の真理や叡智のように厳かに真剣に口にするこれらのワード、読者には「この世界って、もしかして?」という推測を抱かせます。その推測をもとに読み解くと世界観もジャンルもがらりと変わるのがこの作品の魅力のひとつです。ファンタジーをSFとしても読み解ける&ゲーム世界をNPCの視点(だけ)から描く世界観はとても興味深く、体験する価値ありです。
さらには、世界観だけでなくキャラクターも非常に魅力的です。
知識で学ぶだけでは飽き足らず、まだ見ぬ虹が煌めく空に憧れるイウ。
《探索者》になりたい、という願いからイウに共感し、《バグ》として追われる彼女を守り導くモリン。
イウを研究対象としてしか見ていないいっぽう、研究者としてはこの上なく真摯なシュド。
三人がともに旅を続ける理由の根底は、この世界をもっと知りたい、未知のものを解き明かしていきたいという欲求であると括れるでしょう。彼らの一途な姿勢は読者の共感を誘い、また、世界の真実へ導きます。
といっても真面目な研究・散策一辺倒の探究というわけでなく、研究者たちの過ぎた好奇心や世間知らずへのツッコミが忙しかったり、女の子同士の友情が築かれたり、淡い思いの進展があったりなかったりと、楽しく可愛らしい旅路でもあり、いつまでも見守っていたいと思いました。
魅力的なキャラクターたちと美しく不思議な世界を旅しつつ、世界の果てまで虹を見に行きましょう。
世界を創造した存在は、神と呼ばれるにふさわしいであろうし、実際にそうなのであろうと。その世界に住まう人なら当然に、そう帰結するはず。
異世界ファンタジーでゲームの世界に転生しちゃった~とか、VRRPGにリアルでダイブしちゃったりする設定のものはよく見かけ、それらはゲームの知識をもった上で冒険を楽しむものが主流。
しかしなんとこちらの作品、そういう外からの視点を一切持たない内側の人々が主人公。
研究を繰り返し知識を積み重ね、世界の謎の片鱗に触れる事が出来るようになった塔に住まう編者と呼ばれる人々。イウはその中の一人だったのだけど、なんと彼女は絶望をすると穴をあけてしまう性質があり。ついには大穴を開けてしまって、この世界を破滅に向かわせるという「バグ」と認定され、処分されそうに。
そんなイウを「バグ」の研究対象として、隅々まで調べ尽くしたい知識欲の権化シュドは、あくまで研究対象の保護としてイウを助け出す。そこで偶然出くわした探索者モリンと共に、逃亡しながら世界の探求をする物語。
「ゲームあるある」が、その世界の現地の人からはどう見えているかを体感しながら、この美しくも不思議な世界を三人と旅する疑似体験ができる作品です。
おっとりとした純粋なイウと、探索者として色々な事象を目にして来た活発なモリンとの対比と友情も、心を熱くします。
クスリと笑える要素に、手に汗握るアクションシーンの緩急も見どころ。
読んだ時間を後悔しない、お薦めできる要素が多い作品です。