すべては消えた神社の謎から始まった――

主人公の大原美邦は、父の死を期に叔父の元に引き取られ、それまで暮らしていた岡山から田舎の漁村へと引っ越してきた。
そこは母の故郷であり、自身も幼い頃暮らしていた町。そして、彼女にはその町に存在していたと思われる大きな神社の記憶があったのだ。だが不思議なことに、誰に聞いてもそのような神社の存在は知らないと言う。
やがて美邦は仲間たちと共に神社の調査へと乗り出すが、町に潜む禍々しい闇は容赦なく彼女らに襲いかかるのであった――。


作者様の民俗学や神道への深い理解と知識が物語に重厚感をもたらし、非常に読みごたえがあります。
随所にちりばめられた伏線や不穏な過去の事件が少しずつ解き明かされ、ひとつの因縁へと導かれてゆく過程は、見事としか言いようがありません。中弛みもなく、最後まで程よい緊迫感を保ちながら物語が進んでゆきます。
どちらかと言えば淡々とした筆致ですが、古い因習の残る田舎の閉塞感や、得体の知れない禍々しいものが蠢く気味の悪さといった陰鬱な空気感が見事に表現されており、思わず背筋が冷たくなります。

田舎の風習。神社。民俗学。神道。ミステリー。
これらのワードに心が動いた人には是非とも読んでいただきたい作品です。
一度この町、平坂町に足を踏み入れたならば、すべての謎が解明されるまで抜け出せなくなること必至です。

その他のおすすめレビュー

朱鈴さんの他のおすすめレビュー70