ハフリは、癒しの歌を操る歌鳥の民にあって歌うことの出来ない劣等感を抱えた少女。そんな彼女は、はるか遠くの火山灰に覆われた村からやって来た少年ソラトに連れられ、森の外へ飛び出します。
陽気なスオウに強く優しいツムギ、可愛らしいハルハたちといった仲間たちと出会ったハフリは、次第に彼らと絆を深めてゆきますが、この村に連れてこられた本当の目的を知らされ、ハフリは自分自身、そしてソラトに向き合うこととなってゆく――。
緻密で美しい文章で綴られる物語に、一話目からぐいぐいと惹き込まれます。
どこか懐かしい世界観、登場人物たちの名前にも思いと意味が込められていてとてもよく作り込まれているので、物語にするりと入り込めてしまいます。
そして、繊細で細やかな心理表現、自然や人々の暮らしが目の前に浮かぶような巧みな情景描写、そして何気ない一言や場面が後々大きな鍵になってくる伏線の貼り方が本当に見事で素晴らしいです。
特に、村に向かうハフリとソラトがティエンに乗って空を飛ぶ場面の描写には思わず鳥肌が。これを映像で観ることができたなら、どんなに美しいだろうと思わせます。
美しく巧みな文章と緻密な世界観で紡がれる、誰にもおすすめできる少年少女の青春ファンタジーです。本編読了後は思わず笑みが溢れること間違いなしです。
ハフリとソラトに幸あらんことを!
魅力ある世界観や、雄大で美しい自然とともに描かれるさまざまな登場人物たちは、どこか醜い感情と葛藤していて……。
この世界をのぞき見る私たちは、きっとその登場人物たちにどうしようもなく惹かれていくはずです。
なぜなら、彼らのそのどす黒い感情は、誰もがみんな持っているものだから。
それを自覚するのと同時に、忘れかけていた自分のこころの強さと優しさも、ぶわっと強く吹き抜ける金色の風が思い出させてくれるでしょう。
抗えないこと──否、抗えないと思われたことを乗り越えたラストシーンを読んでいたときに私の目から雫がこぼれ落ちたのは、雨のせいなのかもしれません。
必要だったのは環境だったのかもしれない。「他の人」でも良かったのかもしれない。二人の出会いは決して運命ではなかったかもしれないけれど、世界を変える出会いだった。そうとしか思えないほどに、二人は完成されたつがいであったと、そう感じました。
魚が水を泳ぐように、鳥は空を飛ぶもので。けれど、歌鳥たちは自ら籠に入り暮らしている。皆が籠に入っていて尚、「籠の中の籠」に生きるちいさな鳥がハフリでした。そのハフリが、二重の籠を打ち破り空を求める姿はひどく一途で、懸命で、命懸けで――――だからこそ、ひとの心を打つのでしょう。鳥が生きる世界を「空」と呼ぶのなら、きっとソラトこそがハフリの空だった。
この物語は、とても小さな世界で起こった出来事を描きます。
もっと大きな、広い世界があることを示唆しながらも、彼らの物語は、ハフリの身に起こった出来事さえ、ちっぽけなものであったかもしれない、と思わされる「身近さ」があります。決して壮大ではない等身大の物語ゆえに、私達読者は彼らの、さながら友人のような、隣人のような、そんな気持ちで祈るのです。言祝ぎを贈るのです。
どうか二人に、祝福がありますように。
ずっと青い空、緑の草原、そして稜線、を感じていました。
いえ、山烏の民の村はもっと灰色がかった世界なんでしょうけれども……! 私にはずっとティエンやフゥの飛び回る空が見えていたんです、たぶん!
すごく鮮やかで美しい世界観だったんです。
NHKでアニメ化しましょうよ。
言葉のひとつひとつが鋭い感性で選び抜かれているのを感じました。
もうちょっと具体的に言うと、この乾燥した世界にはきっとないのであろう雪の話や、狩人に向かって投げられた爆発物の話など、すべてが世界観を壊さないような単語で説明されているのが……すごい……。
いえ、説明というほど説明というわけでもないんです。すっと自分の中に入ってくる。シンプルな言葉だけで構成されていて、流れも全然不自然でなくて、とても分かりやすいんです。これ、真似しようと思ってできることじゃないと思うんです。すごい。憧れます。
すごく柔らかくて滑らかな印象で、さらさら読んでいくとさらさら流れていきます。引っ掛からない、よどみのない文章です。
私は登場人物でスオウが一番好きです!
ぺろぺろしたいです。いやツムギちゃんの手前しませんけど。
スオウだってかっこいいよ! けどこの話のヒーローはあくまでソラトなんだ。というのがすごい切なくて切なくてスオウ頑張ってくれ~~~~
素敵な作品をありがとうございました。読めて良かったです。
(※以前ぷらいべったーに書いたものの一部を転載しました)
この作品の最大の魅力は、幻想的で美しい世界観にあると思う。主人公ハフリが生まれ育った緑豊かな森と、そこで暮らす歌鳥たちが奏でる歌の数々が神秘的な雰囲気で、読んでいて頭の中にケルト音楽が流れてきた。しかし一見すると何の不自由もない恵まれた環境にありながら、ハフリにとっては常に閉塞感を覚える窮屈な空間であることが文章の端々から伝わってくる。森から出ることのできない歌鳥の民として生まれながらも歌うことができない自分の矛盾に対する葛藤、そしてそれを分かち合う家族がいないことによる孤独。美しい世界の描写が際立つほど、ハフリが閉じこもっている殻のぶ厚さにこちらまで押しつぶされそうになる。
そして彼女が出会った山鳥の少年ソラトもまた、種族の存亡に囚われ苦しんでいた。ハフリの故郷とは真逆の灰に覆われた村の描写からは先の見えない絶望感が漂ってくる。しかしそこで生きる人々の温かさや悲哀、苛立ちからは人間らしい生命力が感じられる。たくましくも悩み多きツムギとスオウは特に好きなキャラクター。スオウの想いが伝わる日は来るのかな。外伝の更新が楽しみ。
歌鳥の民でありながら音痴で、ちっとも上手に歌えない――それゆえに劣等感に苛まれ卑屈になっていたハフリが、空からやってきた少年ソラトとの出会いで変わってゆく。
「わたしのことなんてほうっておけばいいんだよ」
そんな風に言っていたハフリが、自分の意思で選び自分の意思で動いていく。
ソラトの手を取りハフリがやってきた山烏の村で、ハフリはいうなれば変化のための一石だったのだと思う。ひとつの小さな石が水面に投げ込まれ、波紋が広がるように、少しずつ少しずつ周囲を変えていく。
ハフリ、君はちゃんと歌えるよ。
森の外でひとり膝を抱えていたハフリに私は言いたい。歌えるよ、ちゃんと。歌えるんだよ。
その歌の先に、きっと奇跡はあるから。