美しくも窮屈な世界の物語

この作品の最大の魅力は、幻想的で美しい世界観にあると思う。主人公ハフリが生まれ育った緑豊かな森と、そこで暮らす歌鳥たちが奏でる歌の数々が神秘的な雰囲気で、読んでいて頭の中にケルト音楽が流れてきた。しかし一見すると何の不自由もない恵まれた環境にありながら、ハフリにとっては常に閉塞感を覚える窮屈な空間であることが文章の端々から伝わってくる。森から出ることのできない歌鳥の民として生まれながらも歌うことができない自分の矛盾に対する葛藤、そしてそれを分かち合う家族がいないことによる孤独。美しい世界の描写が際立つほど、ハフリが閉じこもっている殻のぶ厚さにこちらまで押しつぶされそうになる。
そして彼女が出会った山鳥の少年ソラトもまた、種族の存亡に囚われ苦しんでいた。ハフリの故郷とは真逆の灰に覆われた村の描写からは先の見えない絶望感が漂ってくる。しかしそこで生きる人々の温かさや悲哀、苛立ちからは人間らしい生命力が感じられる。たくましくも悩み多きツムギとスオウは特に好きなキャラクター。スオウの想いが伝わる日は来るのかな。外伝の更新が楽しみ。

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