謎に一歩近づくたびに、僕の大切なものが……また、一つ。

 民俗学や歴史学の考証に裏打ちされた、奥深い謎解きホラー。この「ホラー・ミステリー」部門にぴったりな作品。
 日本を代表する折口信夫や柳田邦夫など、実在する人々が残した物を巧く利用し、また、医学、神社の知識なども詰め込まれていて、重厚な世界観が広がっている。
 たった一人の家族だった父親を亡くした主人公は、故郷の海沿いの町にある叔父の家に引き取られる。故郷の記憶の中には、あるはずのない奇妙な神社が存在していた。何故、人々の記憶に神社が無くなっているのか? そこに祭られていた神とは何だったのか? 片目を失っていた主人公と祀られていた神の関係は? 主人公たちは、徐々に失われた神社の謎に迫っていく。
 しかし、その謎に迫る中、主人公の周りから徐々に人が消えていく。そして主人公が引き取られた家でも何かが確実に狂っていく。主人公の協力者で、博識の男子生徒は、主人公と共に神社の謎に迫っていくが、その謎に一歩迫るたびに、自身が徐々に欠落していくという現象に襲われる。そして男子生徒の家も狂っていく。
 ある意外な人物の手引きで、失われた神社に居座るモノを送り返そうとする主人公と男子生徒だったが、そこには衝撃のラストが待っていた。
 超濃厚なホラーでありながら、あらゆる知識を動員しても追い付かない謎解き。短くはないが一気に読めてしまう。
 是非、ご一読ください。

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