第66話 ドスケベクッキング(真面目)


 離婚後の夫婦のような乃絵留と沙優のぎこちない会話を聞き流しながら、俺は一人キッチンで晩飯の支度をすることに。


「とりあえずメインはステーキなわけだし、白米は必須だよな」


 乃絵留は肉の時かなり米を食うので、それも考慮しないと。


 俺は早炊きモードで炊飯器を動かすと、次に冷蔵庫の野菜室を覗く。


 いつも通りサラダにするのも悪くないが……せっかくのステーキだからな。付け合わせでマッシュポテトとにんじんのグラッセってのもアリだ。


 俺はコックパッドと睨めっこしながらメニューを決めると、ジャガイモとにんじんを手に取ってシンクで洗い、皮を剥いてから調理を始める。


 まずはマッシュポテト。

 皮を剥いたジャガイモを適当な大きさに切ってから火にかけた鍋に投入する。


 ジャガイモが茹で上がるのを待っている時間で今度はステーキレストランでお馴染みの、にんじんのグラッセの準備を。

 俺は洗ったにんじんの5cmくらいの間隔で拍子切りにするとフライパンに投入し、水、バター、塩、砂糖と混ぜ合わせながら火にかけて煮る。


 しばらくフライパンで煮ると、徐々にバターが溶けた時の濃厚な匂いと、砂糖が溶けた時のほんのり甘くてちょっぴり焦げ臭いカラメルのような香りがしてきて、テカテカのにんじんのグラッセが完成。

 さらにジャガイモが茹で上がると、今度はジャガイモをペースト状に潰して耐熱皿に移し、さっきのグラッセでも使ったバターとあとは牛乳もジャガイモが入った皿に加えてレンチン。そしてレンチンが終わってからは、ジャガイモをしっかりと混ぜ合わせて塩胡椒で味を整える。


「よし、これでいいな」


 にんじんのグラッセとマッシュポテト、付け合わせの2品があっという間に完成した。


「付け合わせはこれくらいにして、ここからはメインのステーキ、だな」


 俺はニンマリと肉を冷蔵庫から取り出す。


 ザ・男料理と言わんばかりに、豪快ににんにく醤油でステーキを一緒に焼くのもアリだと思ったが、どっかの美少女ギャルが普段は出さない乙女オーラをビンビンに出してるせいでそれはできない。


 まあ味付けはシンプルに塩胡椒にして焼いて、ステーキのソースは各々後付けで選ぶことにしよう。


 俺はさっそくオリーブオイルを敷いた熱々のフライパンに、買ってきたステーキ肉を投入した。

 するとすぐに肉の焼ける香ばしい匂いが鼻腔をくすぐって、食欲を掻き立てる。


「うっおおお、これは、おお!」


 上の換気扇を動かすのを忘れてしまうくらい、肉の香りに心酔してしまう。


「わぁ……は、遥希……も、もう食べれるんじゃないかしら!」

「まだ焼き始めて数秒なんだが。てかなんでこっち来てんだよ!!」

「肉の香りがしたから」

「そんなストレートな言い訳があってたまるか! ほら、今からしっかり焼くからあっちで待ってろって」


 メシのことになると、すぐこいつは。


 乃絵留は去ってからも何度もキッチンに顔を出してきたのだった。

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