第52話 エッチなコスプレを着るか否か


 沙優からドスケベコスプレ貯金のことを聞かれた俺は、説明せざるを得ない状況に追い込まれる。


「遥希くん?」

「あーいや、ドスケベコスプレ貯金というのは、カクカクシカジカで……」


 一から説明するのも嫌なのだが……仕方ない。


 俺はその後、上手いこと自分に変な火の粉が飛んで来ないように、必死に乃絵留から提案したことにして難を逃れる。


「……というわけなんだが」

「えっと、じゃあつまり……二人はこれからも、こんな感じでご飯の関係を続けつつ、お釣りを貯金してドスケベなコスプレ衣装を買うってこと?」


 沙優は俺の説明を噛み砕いて要約してくれた。


 その通りではあるのだが……なんていうか。


(こうやっていざ言語化されてしまうと、俺たちはとんでもないことをしようとしてるんじゃないのか……?)


「春原さん、あなたも協力したらどうかしら?」

「え、あたしも?」

「その方が遥希も喜ぶし……何よりもあなた、自分で言っていたわよね? ドスケベコスプレするって」

「え゛……それは、まあ」


 スノトでフラッペを飲みながら会議したあの日。


 確かに沙優は恥じらいながらもドスケベコスプレをすると自分から公言したのだが……。


「言ったけど! あれは文化祭での話で! それとこれはワケが違うというか」

「じゃああなたは、文化祭でドスケベな格好をするのかしら?」

「そ……それは予算的にも倫理的にもできないと思ってたし、そもそもあの時は乃絵留ちゃんに流れで言わされたというか」


 そりゃそうだな。

 文化祭でドスケベコスプレなんてできないことは、最初に気づくだろう。


「ふっ……でしょうね。わたしは最初から、文化祭でドスケベコスプレをするつもりはなかったもの」

「え? どういうことだよ。お前から言い出したのに」

「わたしはただ春原さんにドスケベコスプレをすると言わせたかったの。あの時『言質は取った』と言ったでしょう? だからもう逃げられないわ」

「へ? じゃ、じゃあまさか乃絵留ちゃん! もしかして最初から!」

「ええ。文化祭のコスプレは別として、あなたにもドスケベコスプレ貯金のコスプレ側として参加してもらうわ。遥希の料理モチベを持たせるのにあなたの身体も必要だもの」

「えー! そんなぁー!」


 そこまでしなくてもやる気は出るのだが……ったく、人聞きが悪すぎる。


 しかし、俺たちは乃絵留の手のひらで踊らされながら、ドスケベコスプレという訳のわからないワードに振り回されていたってことか?


 ただでさえ超絶美少女の乃絵留だけでなく、同じレベルの沙優をドスケベコスプレに参加とか……とんでもないことになって来たが。


「は、遥希くんはどうなの! あたしも参加しないとダメ?」

「え、いや……まぁ、沙優が嫌なら、参加しな」

「ダメよ春原さん? あなたも着るの」

「えぇ……」


 俺の発言をぶった斬りながら、乃絵留は沙優の参加を強制する。

 まぁ、俺としては沙優も着るなら……アリなんだが。


「遥希くん、もっとちゃんと否定してよ! あたし本当はエッチな格好したくないし!」

「あー、そうだとしてもなぁ……お、俺はそろそろカレーの準備をしないといけないから。これで」

「ちょっ!」


 すまない沙優……ドスケベコスプレを着てくれ。


「もぉー、遥希くん!」


 沙優は俺がキッチンで夕飯の支度を始めた後も乃絵留に向かって、駄々を捏ねる子供みたいにあーだこーだ言っていた。

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