第5話 ギャルとスープと特別な晩御飯
アパートに到着し、部屋の鍵を開けて雪川と一緒に部屋へ入る。
面倒くさがって荷解きしてない段ボールに小さなちゃぶ台、座布団、小型テレビ。
引っ越して来たばかりで殺風景な俺の部屋。
そんな部屋にクラスのトップギャルがちょこんと座っている。
(なんだこの光景は……)
俺は部屋の中を見回してから、キッチンに買ってきたものを移動させて料理に取り掛かる。
雪川を晩飯に誘ったものの、俺の料理の腕なんて人並み以下だし、コックパッドの指示に従うだけのマニュアルコックなんだが……雪川を満足させられるだろうか。
雪川はちゃぶ台の前に女の子座りで座りながら、大人しくスマホに目を落としている。
遠目で見ても分かるくらい長いまつ毛に透き通るように美しく長い髪。
顔は小さくシュッとしていて、逆に胸元はボンッとデカい。
このギャル……いつ見てもエロ(可愛)いな……。
「梶本……あと何分くらいでスープできる?」
「え? あ、も、もうすぐだから!」
何、雪川のことばかり考えてんだ俺! 今はスープだろ。
俺はコックパッドの指示通りに手際良く野菜スープを作っていく。
まぁ、仮にどんな味のスープだとしても、惣菜パン一つだけの晩飯よりはマシだろ。
不味いって言われたら……もうそれまでだ。
「で、出来たぞ……雪川」
キャベツとにんじんとブロッコリーがたっぷり入ったコンソメスープを、雪川の前にあるちゃぶ台に置いた。
誰かに自分の料理を食べてもらうなんて、初めての経験だから、緊張して来たな。
(ええい……こうなった以上、もうどうにでもなれ!)
「あなた…………これ」
「お、おう」
「て、天才的に美味しい……!」
「……え?」
雪川は一口食べただけで目を見開いて言った。
「このしっかり煮込まれた野菜の食感が、野菜を野菜と感じさせないくらい食べやすい食感で……スープの肝であるコンソメの主張も、くどくなくて程よくバッチリ……ど、どうしてこんなにも美味しい野菜スープが作れるの……?」
いつもは口数の少ない雪川だが、なぜか一人で興奮している。
いやこれ、コックパッドにある主婦のレシピを丸パクリしながら作ったスープなんだが……。
「梶本ってもしかして……東京にいた頃は天才的な料理の腕を持ちながら、周りの学生の稚拙な料理の腕に飽き飽きして、高校生ながら料理の腕を鍛えるために流浪の旅に出てる的な人、なの?」
「なんだそのわずか10週くらいで突き抜けそうな料理漫画の主人公は……」
「これほどの腕があるから……わたしを晩御飯に誘ったの……? そうなんでしょ?」
「ち、違うって! 俺は普通に不登校になったから環境変えたくて東京から出ただけで」
「不登校?」
あ、やべ……余計なこと、喋った。
「……梶本って、不登校、だったの?」
不登校の過去は、誰にも知られたくなかった。
俺は昔から周りに馴染むのが苦手だ。
友達作るのが苦手なのもそれが理由。
周りに趣味を合わせたり、周りの話題についていくのが……難しいから。
でもこのままの自分じゃダメだって。
もう一度、頑張りたくて、環境を変えたくてここに来た。
それなのに……。
「なら、良かったわね……」
「よ、良かった?」
「あなたが過去に何があったのかは聞かないけど……今の話をするなら、こっちではちゃんと学校に来てる。それで良いじゃない」
雪川はスープを勝手におかわりしながら、優しい顔でそう言った。
な、なんだよ……こいつ。
普通なら不登校の過去なんて、馬鹿にするだろ。
「……このスープ、テイクアウトしてもいいかしら」
「て、テイクアウトって。どんだけ気に入ってんだよ」
さっき帰りに文化祭の話を聞いた時も思ったが……雪川は天然でありながらも、それ以上に根っから敵を作らない性格なのかもしれない。
だからこそクラスのNo. 1ギャルとして、ギャルグループの中心にいる。
これが雪川の……優しさ、なのか。
俺はスープを飲む前からやけに胸が温かくなっていた。
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