第29話 二代グループのトップ(爆乳)たちが向かい合う時
そして迎えてしまった放課後……。
7限が終わるのと同時に、雪川と人見は帰り支度を済ませて、俺の机の前にきた。
「んじゃ転校生。私らは先にあんたの部屋行ってるから」
「な、なんでだよ。一緒に行けば」
「春原さんとわたしが……一緒に行動をするなんてあり得ないから」
人見も雪川も臨戦態勢というか、顔が全く笑っていなかった。
(こんな調子で、大丈夫なのだろうか……)
ふと春原の方を見てみると、相変わらず柔らかい笑みを浮かべながらクラスメイトとお喋りをしている。
春原沙優にとってはギャルグループの二人と話せるから楽しみ、みたいなノリなのかもしれないが、あいつら二人は間違いなく敵対意識が先行してるもんな。
実際、春原と二人が一緒にメシを食ったところで、何も変わることはないだろう。
人見は春原のことよりも湯ノ原のことが嫌いだし、雪川に関しては幼い頃から目立っていた春原にコンプレックスのようなものを抱いている。
その蟠りはそう簡単に晴れるものじゃないと思うんだが。
「ねえねえ聞いた?」
「なん? 急に」
「乃絵留ちゃんと香奈ちゃんが今日、どっかで優等生の奴らと話し合いするって」
「いやそれ、さすがにガセっしょ。だってあたしら、昨年文化祭で真っ二つになったんだよ?」
「やっぱそうだよねー。なんかの聞き間違いかも」
教室の一番後ろに座るギャルたちから、とんでもない会話が聞こえてくる。
どこから漏れてんだよその情報……。
「おーい、梶本くんっ」
「……うおっ! は、春原」
「そろそろ行こ?」
さっきまで自分の席で友人たちと話していた春原が、俺に声をかけてきた。
「ああ……い、行くか」
俺はもうどうなっても知らないからな。
☆☆
春原沙優と一緒に高校を出るというのは不思議な感覚だ。
周りの生徒たちが目を丸くしながら俺たちを見てくる。
こりゃ明日の大スキャンダルニュースに発展しそうだ……はぁ。
「梶本くんってさ、東京にいた頃も今と変わらない感じだった?」
「それ、陰キャだったかって聞いてるのか?」
「そうじゃなくて。ギャルの子たちとも普通に話せるくらいコミュ力あったのかなって」
コミュ力モンスターの春原にそんなこと聞かれると違和感あるな。
なんか誤解されているようだが、東京にいる頃の俺は、そもそも女子と話すきっかけすらなかったわけで。
「……今も昔も陰キャなのは確かだし、コミュ力も昔から皆無だぞ」
「そうかなぁ? 雪川さんと話せるの凄いと思うけど」
どこがだよ、と本気で思った。
「ところで春原って……小学校の頃から雪川と同じだったんだよな?」
「う、うん……雪川さんとはずっと一緒」
春原は切なそうに呟く。
雪川も少し話してくれたけど、春原からも何か思うところがあるっぽいな。
「雪川さんって……無駄に明るいあたしからしたら、お姫様、みたいな存在っていうか」
「あ……あいつが、お姫様?」
あんなガメツイ姫がいてたまるか。
今までパン一個で我慢してたくせに、急に桁が外れたようにメシメシ言い出すワガママ野郎だぞ…………いや、ある意味姫に向いてるかも。
「雪川さんって、あたしと違ってお淑やかで、落ち着いた雰囲気があって、大人っぽくて。髪の色も綺麗だし……西洋のお姫様みたいな」
意外だった。
春原は雪川のことをそういう風に褒めるだなんて。
てっきり春原も春原で、雪川とは距離を置きたいと思っているものかと思ったが……どうやら逆みたいだ。
そういえば「いい加減仲良くなりたい」とか言ってたな。
「春原は、雪川と仲良くなりたいんだな?」
「もちろんだよっ。雪川さんはあたしに無いものをいっぱい持ってるから。勉強も凄いできるし!」
それは自虐ネタと思っていいのだろうか。
「実はあたしね、小学校の頃から雪川さんと友達になりたくて何度か話しかけてたんだけど……それがウザかったのかな? なんか嫌われちゃってるみたいで。あはは」
苦笑いしながら、春原は少し寂しそうに言った。
雪川本人も春原のことは嫌いだと言っていたが、やっぱ伝わってたってわけか。
「それじゃあこの後、少しでも仲良くなれるといいな」
「そう、だね……」
さすがの春原も、やはり不安の色を顔に浮かべていた。
多少は俺もサポートするつもりだ。
もしも俺がこの二人の仲を取り持ったら坂本龍馬並みの快挙と言っても過言ではないが……まぁ、無理だろう。
アパートの前に到着すると、少し足が重たくなる。
とても上手くいくイメージは湧かないが……こうなった以上、成るようにしかならないよな。
俺たちが部屋の前に行くと、そこには……スマホを弄りながら駄弁っている人見と雪川がいた。
「……あら、やっと来たのね」
「雪川、さん」
女子の二大グループのトップが今、俺の部屋の前で対峙した。
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