第9話 二大美少女の関係とギャル二人の関係


「春原のことが、嫌だった?」

「ええ……そうよ」


 春原が自分とは対立したグループにいるとはいえ、雪川がそんなこと言うのは意外だった。


「昔から……春原さんとはよく同じクラスになることがあったわ」


 雪川は徐に過去のことを話し始める。

 俺はそれを隣で黙って聞いていた。


「幼稚園、小学校、中学校……どこでも春原さんとはクラスの中心で。明るくて、可愛げのある女の子だから常に人気者……」


 だろうな、という感想しか出てこない。


「そんな彼女とわたしは、昔からよく比べられて」

「雪川と、春原が?」


 雪川は小さく頷いて、続ける。


「春原さんは愛嬌もあるのに、雪川さんは口数が少ないし無愛想だって……みんなわたしのことそう言って揶揄ってたわ。わたしは動じなかったけど」

「へ、へぇ……」


 きっと雪川と春原は同じ容姿端麗の美少女なのに、性格と振る舞いが真逆だから、そうやって言われていたのかもしれない。


「明るい性格の方が周りに認められるから……わたしとは真逆の明るくて元気な春原さんと一緒のクラスになるのが、わたしは嫌だった」

「なるほど。それで、春原とあんまり仲良くない感じなのか?」

「……まぁ、仲良くないといえばそうかもしれないし、そもそもあまり話したことない」


 明るい春原と無愛想な雪川。

 対照的だけど、どちらも群を抜いて容姿が良いのは間違いない。

 しかしどれだけ同じ美少女であっても、明るくて元気な春原の方が周りからの受けが良いのは……まぁ仕方ないのだろう。

 でもそれで雪川が揶揄われるとか……とばっちりもいいところだよな。


「けど、高校生になった時……同じクラスになった香奈だけはこんなわたしを友達として仲良くしてくれて」

「人見香奈が?」

「ええ……ネイルとかメイクとか、あとファッションも。香奈がギャルのことわたしに教えてくれた。ギャルなら根が無愛想でも、周りからは明るく見えるって言ってくれて」


 なるほど……雪川に世間一般の派手なギャルっぽさがないのは、高校から人見にギャルの文化を叩き込まれたからなのか。


「ていうか人見のこと親友っぽく言うわりには、文化祭の時には裏切ったんじゃなかったか?」

「そ、それは……余ったたこ焼きとお好み焼きがタダだったから、仕方なかったの」


 雪川は罰が悪そうに言い訳してくる。

 毎日2000円も食費を貰ってるわりに、無料たこ焼き目的で文化祭行ったり、この買い物袋の中の食材も20%引きのものを選んでいたりと、案外節約思考なんだよな。


 ギャルってそんなに資金面で大変な生き物なのか……?


「あなたは香奈のことをドSだか女帝だか変な勘違いしてるみたいだけど、香奈は仲間想いの優しい子なの」

「いやSっぽいとは言ったけど、ドSとか女帝とかそんなこと言ってないんだが——」


「ちょっと! 転校生!」


「「……え?」」


 俺たちが家に向かって歩いていると、突然背後から耳をつんざくギャルの声が聞こえた。


「あんた! 乃絵留と何やってんの!」


 噂をすれば影が差す……とはまさにこの事だった。

 サラサラと揺れるブロンドの長い髪に、夕陽に反射するイヤリングと指輪。

 キツい性格を表すかのように鋭利な眼差しと、雪川にも負けず劣らずの美貌スタイル

 俺たちの背後にいたのは人見香奈だった。


「ねえ乃絵留。なんでこいつと一緒なの? おかしいじゃん。もしかして、こいつに弱み握られて脅されてるとか?」

「香奈……それは偏見。梶本はそんなことする男子じゃないから」


 雪川は真っ向から人見の発言を否定した。


 ゆ、雪川……もしかして俺のこと庇ってくれんのか……?


「は? でもこいつ。私にプリント渡す時、いちいち私の胸とか見てくる変態だし」

「え? 梶本が?」


 それを聞いた途端に、雪川の俺を見る目が鋭くなる。

 一気にギャル二人から睨みを利かされている、まさに修羅場と化した。


「ほんとなの、梶本?」

「おい! 言い掛かりはやめろよ! た、確かに、人見はいつもシャツを着崩してるから、ちらっと見てしまうことはあったかもしれないが! 決して常習犯ではない!」

「うわ、必死すぎキモ」

「まぁ……梶本のそれはとりあえず後にして」


 言い掛かりだって言ってんだろ! 後にすんな!


「せっかくだし香奈も一緒にどう? 梶本の家」

「は? こいつの……家?」


 お、おお、おぃぃぃぃいいいい!

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