第17話 雪川乃絵留は独占欲の塊(意味深)


 あの雪川乃絵留が、俺のことを……。


「は、遥希ぃ?」

「あら……あなたの名前って遥希じゃなかった?」

「いや、それは合ってるんだけど……」


 やけに自分から朝の挨拶をして来たと思ったら、急に俺のことを名前で呼んできた雪川。


 確かに俺は昨日、雪川を中心としたギャルグループ側の人間になると約束した(晩飯目的で)。


 それにしたって、距離の詰め方が極端すぎないか?


(春原の距離の詰め方もなかなかにバグっていたが、雪川もまた別の意味でバグってるような)


「あのさ、雪川って……友達になったら下の名前で呼ぶ系なのか?」

「……そうね」

「でもそれ、俺たちの関係値だと少し誤解を生むというか。異性でもあるし」

「誤解? 何の問題があるの?」


 そこまで言ったら普通は察するものだろ……てか、察しろ!


「あっ……もしかしてあなた、わたしと懇ろな関係だと思われるのが嫌?」

「懇ろって……」

「嫌なの?」


 雪川はギロっと目を細めながら問い詰めてくる。

 嫌と言ったら、嫌なんだが……あんまり嫌々言うのも、まるで雪川のことを『嫌い』みたいに聞こえそうだし。


 それでギャルグループの仲間から一転、敵と見做されたら俺の学校生活終わるぞ……。


「い、嫌とかそういうのじゃなくて! シンプルに距離近いなーって。それに俺みたいな陰気な転校生と変な噂が流れたら、雪川こそ嫌だろ」

「全く気にしないけれど?」

「は? さすがに気にするだろ」


 雪川はブレない表情のまま、小さく首を横に振る。


「もしあなたが他人の目を気にする必要のある人間なら、そもそもわたしはグループに引き入れたりしない」

「え?」

「あなたは……初対面のわたしの身体を心配してくれて、あと料理が得意で、料理が美味しくて、とにかく手料理が美味しいから……何一つとしてあなたと仲が良いことを恥じるなんてことはないわ」

「ゆ、雪川……お前」


 後半メシのことしか言ってないぞこいつ。


 一瞬、俺のことを認めてくれているのだと思ってしまったが、こいつが認めているのは俺の料理の腕(コックパッド)なのだと再確認した。


 雪川乃絵留……自分の欲に対してあまりにも素直すぎるだろ。


「だからわたしは気にしない……

「むしろ?」

「やけにあなたに近寄って来る春原さんに、あなたはもう既にわたしたちのグループの人間だって、見せつけたい気分だもの……」


 雪川は薄らと悪そうな笑みを浮かべてそう呟く。


 根は良い子そうなのだが、意外と独占欲があって、変に拘り強いよな……雪川。


「そういう訳だから……いい? 遥希」

「え? お……おう」


 つい、流されるように頷いてしまったが……。


 や、やべえ……春原の秘密知って、前より仲良くなってるなんて、口が裂けても言えない展開になって来たんだが!?!?


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