第21話 巨乳と巨乳に挟まれて修羅場になる
「ね、凄いよねっ」
「え、えっと……」
90点のテスト用紙を、嬉々としながら両手に持っている春原沙優。
俺と同じで2問しか間違えてない……って、今はそんなことより!
右隣と背後に座るギャルどもから、嫌なプレッシャーを感じる。
背後の人見からは明らかな舌打ちが聞こえ、右隣の雪川は、言うまでもなく冷ややかな視線を送ってきた。
「ほんと梶本くんのおかげだよ、あたしさ、特に英語が苦手だったから」
「よ……良かったな? ちょっぴり教えただけでこんな良い点とるなんて」
苦肉の策として、春原と話していたのは認めるとして、ほんの少し教えただけ、ということをアピールすることで場を乗り切ろうとした俺。
もはや週刊誌にしっかり抜かれた芸能人の言い訳みたいに、かなり見苦しい対応で、それでも許しを請おうとした……のだが。
「ちょっぴり? 朝、早く来ていっぱい教えてくれたじゃんっ、そんな謙遜しなくても大丈夫なのにー」
お、おぃぃぃいいいいいい!!
俺の立場なんぞ知る由もない春原によって一蹴されてしまう。
背後からの舌打ちと右隣の視線がさらに痛い。
まずいまずいまずい……。
ギャルグループに囲い込まれた翌日から反旗翻して、優等生グループのトップオブザトップの春原沙優と勉強会してたのバレちまった。
このままじゃ、ギャルどもにしばかれるっっ!
「え、と、別に謙遜なんかしてないっつうか」
俺がさらに否定しようとした、その時。
「ちょっと春原さん……いいかしら?」
黙っていられなかったのか、雪川が急に席から立ち上がると、春原沙優を呼んで向かい合う。
突然の対立構図に、周りの生徒たちも固唾を飲んで見守った。
女子の対立する二大グループのトップが2日連続で向かい合う、バチバチな展開(なお、またしても何も知らない春原は?を頭に浮かべている)。
さらに両者のそのデカすぎる
ま、まずい……本来なら俺の裏切りが発覚してシリアスなはずなのに、この二人が向かい合うと、胸にしか視線がいかないんだが……。
「雪川、さん? どしたの?」
「言っておくけど、わたしは……」
そう呟くと、雪川はギロっと目を細める。
「英語の小テスト、100点だったけれど?」
…………は?
突然の100点取ったどマウントに、後ろの席の人見も同じく唖然としながら「は?」と呟く。
こいつ……まさか俺どうこうで睨んでたんじゃなくて、自分の方が点数で上なことを自慢するタイミングを伺ってたのか!?
「へ、へぇ……す、凄いね、雪川さんっ」
春原は急に自慢されて、困り眉になりながらも大人な対応を見せる。
……おいおいどうすんだこの空気。
「えとー、じゃあ梶本くん。あたし、そろそろ席に戻るからっ」
「お、おう……」
こうして春原は、ギャルグループの中心二人の爆弾に火をつけるだけつけて行ってしまった。
雪川はまだしも……人見は、ヤバいよな。
俺はゆっくり背後に目を向ける。
「転校生ぇ……? 黙って聞いてれば、春原とイチャイチャしやがって……アンタ、私らに喧嘩売ってる?」
もうその目は人を●る時の目だった。
「あの……ち、違うんだ、その」
「何が違うん? ねえ乃絵留、やっぱこいつ優等生の奴らと親しいしダメだわ。料理なら私が作ってやるから」
「…………」
「って、乃絵留?」
雪川はずっと俺を見下ろしながら、その場で佇んでいた。
「遥希、あなたは昨日……わたしたちのグループに入ると言って、料理を作ると言った」
「それは……まぁ」
説教……だよな。そりゃ。
人見の前だし、もしここで俺を許したら、ギャルグループのトップである雪川としても顔が立たない。
また……これで俺は、ぼっちに……。
「……春原さん、困っていたの?」
「え?」
謎の質問だった。
あなたはもう勘当よ、と言われるものだと思っていたのだが……困っていた?
「えと、まぁ、困っていたといえば困っていたというか」
「……でしょうね」
雪川は、何やらほくそ笑みながら自分の席に座り直した。
「ちょ、乃絵留? なんなのそれ」
「遥希はただ人助けをしただけ……別に、グループとは関係ないわ」
「は? なんそれ、でもこいつは」
「もしもあなたが、倒れている春原さんを見かけたら、仲が悪いとしても保健室に連れて行くでしょ?」
「それは……そう、かもだけど」
「遥希はそれと同じことをしたの。だから悪いことじゃない」
雪川は淡々とそう言って、4限で使った教科書を、机の中に仕舞い始めた。
「転校生……命拾いしたな」
人見はそう言って一人どこかへ行ってしまった。
俺、許された、のか?
なんか雪川は上手いこと言いくるめていたが……いいのだろうか。
「なんか、ごめん雪川」
とりあえず俺は、雪川に謝罪を口にする。
「謝ることはないわ……本来なら、あなたにグループ間の対立は関係ないもの」
「でも……お前は春原のこと」
「確かにわたしは春原さんが苦手よ。今もそう思っているし、テストで勝てたから悦に浸ってすらいるわ……でも」
雪川は急に俺の方を向くと、真っ直ぐな眼差しで、ジッと俺の方を見てくる。
「もし春原さんが困っているのに、グループ間の争いなんかを理由にして、春原さんのことを無視するようなら……わたしはあなたのことを嫌いになっていたと思う……から」
「雪川……」
厳しさも、優しさも、雪川は持っているのだと思った。
雪川は良くも悪くもフェアで、その上でギャルグループを束ねている。
そう考えると文化祭の時のことも……もしかして無料たこ焼き以外にも理由があったんじゃないのだろうか。
そんな勘繰りをしてしまうほど、雪川は天然に見えて意外と考えているのだと思ってしまった。
「それはそうと……90点の春原さんを褒める割に、100点のわたしへの賛美はないのかしら?」
「え? なんで」
「……はぁ。やはり遥希は料理だけ作っていればいいわ」
勝手に呆れて勝手にどこかへ行ってしまう雪川。
でも……助けられたな、雪川に。
どこか、ギャルグループに好印象を抱いてしまう自分がいた。
いや、ギャルにはならんけども。
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