第26話 大波乱はここから始まる?


「し、失礼、しました……」


 脳内で悩みのタネを栽培しながら、俺は職員室を出る。


(とんでもないことになってしまった……)


 ただでさえ、春原に勉強を教えただけで人見からはキレられて、身の振り方にはより一層、慎重にならないといけないってのにこの始末。


 文化祭の実行委員ともなれば、ほぼ優等生グループに仲間入りみたいなものだ。


 そもそもの話、男子代表は百歩譲って分かるけど、男でぼっちの俺がギャルグループの代表ってのは理解に苦しむ。


 確かに俺はギャルどもと話せるが、役職はただのコック……しかもコックパッドを丸パクリするカンニングコックだし。


「梶本くん改めて、よろしくね?」

「あ、ああ」


 でもまぁ、あの春原沙優が一緒なら心強いし、案外大丈夫なのかもな。


「いやー、梶本くんが雪川さんたちと仲良くて大助かりだよー。これなら今年は色々と大丈夫そうだし」

「……そ、そういえば、どうして春原は俺と雪川たちが話していたのを知ってるんだ?」

「あーそれ? 実は今朝、勉強会の後も英語のことで聞きたいことができちゃって、ずっと梶本くんのこと見てたというか」

「ずっと!?」


 あの春原沙優が俺をずっと見ていたとか、嬉しいような、恥ずかしいような。


 そういえばふと目が合ったよな? あの時、手を振ってくれて。

 たまたまだと思っていたが……あれはずっと俺のこと見ていたからだったのか。

 てか手を振ってくれたのも、ひょっとして『聞きたいことがあるんだけどー』って意味だったのか?


 大きい目に優しい声色。顔立ちがとんでもなく整ってて可愛いくて、性格も快活で裏表もなく優しい。

 こんな非の打ち所が(学力以外は)全く無い美少女が、俺みたいな元引きこもりぼっちを見てたなんてシチュエーション、あっていいのだろうか。


「梶本くんさ、転校してきてからつい最近まで、あんまりクラスに馴染めてない感じがして、ずっと心配してたけど……それも杞憂、だったかな?」

「そ、そんなこと! 春原が毎朝話しかけてくれて、感謝してるし! 雪川とは、その……ちょっとした関係であって」

「ちょっとした? え、もしかして"どえっち"な関係ってこと!?」

「断じて違う! あと声がデカい」


 俺が否定しながら注意すると、春原はさっと口元を両手で押さえる。

 ていうか"どえっち"て。どんな語彙力だよ。


「そもそも俺は雪川たちと仲良しって訳じゃなくて、単に利用されてるというか」


 こうなった以上……しっかり経緯を話しておかないとな。


「実は俺……たまたまスーパーで会った雪川に、食事が偏っていることを指摘したことがあって。その場の流れで、雪川に料理を振る舞うことになったんだが」

「お料理を?」

「ああ。それからというもの、料理の腕がなんか変に気に入られて……その翌日になぜかギャルグループの人見にも、料理を振る舞うことになって。そしたら人見からも好評で」

「あの気難しい人見さんからも!? すごっ」

「それでなんていうか、その流れで二人からギャルグループに入れって言われたというか……って、春原?」


 春原は俺の話を聞きながら、ごくりと生唾を飲み、俺の方に熱い眼差しを向けていた。

 な、なんだなんだ? 春原どうしたんだ?


「梶本くん……」

「は、春原っ?」


「あたしも食べて見たい! 梶本くんの料理!」


「え……ええ!?」

「今日の放課後! 梶本くんの家、行ってもいいかな!」


 あの春原沙優が……俺の家に!?



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