第36話 デカパイ美少女たちを堕としまくる陰キャ


 雪川は2杯もおかわりして炊飯器を空にした夕食後……ギャル二人がのんびりしてる中、俺が皿洗いをしようと思っていたら、春原がキッチンまで顔を出した。


「ね、梶本くん。お皿洗いはあたしにやらせてもらえないかな?」

「え? でも……」

「夕ご飯をご馳走になったのに、何もしないのは悪いし……お願いっ」


 どうやら春原は、気を遣ってくれたらしい。

 別にそんな気にしなくても……。


 どっかのマイペースワガママお嬢様と違って、春原になら無償でいくらでも飯を作ってあげたいくらいなんだけど……でも春原からしたら何かしないと気が済まないって感じなのかな。


「分かった。じゃあ食器の乾拭きお願いしてもいいか? 洗うのは俺がやるから」

「え、でも洗う方が大変だからあたしが」

「女子は手先が命だろ? 俺の家にあるこんな安い洗剤で手が荒れたら申し訳ないし……春原はせっかく手も綺麗なんだから、もっと大事にしてくれ」

「……っ」

「ん?」


 春原はなぜか俺の隣で硬直しながら顔もボーッとさせていた。


「どうしたんだ春原?」

「えっ、あっ、なんでもない! お皿の乾拭きね! やるやるっ」


 春原は乾いたタオルで俺が洗った皿を拭いてくれる。

 食洗機なんて買えるはずもない一人暮らしの学生にとって、食器の洗いと乾拭きはかなり面倒なので手伝ってくれるだけで助かる。


(まぁ、どっかの2杯飯デカパイ美少女は、リビングで腹を摩っているだけなんだが)


「梶本くんって、お料理もお勉強もできて、雪川さんみたいな癖のある子とも普通に話せるし……凄いよね」


 春原と並んで作業していると、急に春原が俺を褒めてくれる。

 俺のことよりも、あの春原からも癖のある子判定されている雪川乃絵留とは……。


「東京にいた時、モテてたんじゃないの?」

「は? モテる? 俺がか?」

「うん。東京に彼女とか、いるのかなーって」


 こちとら元不登校の陰キャなんだぞ? 彼女なんかいるわけないだろ。


「い、いないいない。俺……彼女とかできたことないし。できるわけないし」

「そうかな? 人見さんとか雪川さんと話してる時の梶本くん、女子と話し慣れてる感じあるけど」

「あれは……単にあいつらが、ウザ絡みしてくるからなんとなく付き合ってやってるだけで。普段から女子と話す時は緊張してる」

「へぇー、意外だなぁ」


 どこが意外なんだ? どこからどう見ても陰キャすぎるだろうに。


「それじゃあさ、あたしと話してる時も緊張してたりする?」

「え……」


 春原は揶揄い気味にニヤけながら聞いてくる。


「いや、春原は慣れたかもな。緊張とかはしてない」

「ほんと!?」

「え、お、おお」

「それなら! これからも話しかけていいよね?」


 春原は眩しいくらいの笑みを俺に向けてくる。

 なんでそんな嬉しそう、なんだ?

 陽キャの思考、分かんねえ……。


「じゃあじゃあ! 明日は数学で、明後日はまた英語を〜」

「いやそれ、話しかけるというよりただ勉強のこと聞きたいだけじゃないか」

「あ、バレちゃった」


 いたずらっ子みたいに舌を出して笑う春原は、いつもより無邪気な感じがして可愛らしい。


「文化祭も頑張らなきゃだけど、あたしの場合は勉強も頑張らないとだから。今日の小テストの成績からして、梶本くんに教えてもらえば毎回90点以上取れそうだし!」

「安直な考えすぎると思うが……まぁ、俺なんかでいいなら、いつでも教えるけど」

「やったっ! ほんとありがとうっ」

「は、遥希……くん?」

「うん! 遥希くんもあたしのこと沙優でいいよ? もう一緒のご飯食べた仲なんだし、いいじゃん?」


 さも当たり前のように言っているが、あの春原沙優のことを『沙優』って呼ぶなんて……そんなの無理に決まってる!

 さすが陽キャ中の陽キャ……距離の詰め方エグい。


「ちょっと遥希……春原さんのことを沙優と呼ぶなら、わたしのことも乃絵留と呼びなさい」


 急に俺たちの前に歩み寄ってきた(胸と腹が膨らんだ)雪川乃絵留。デカすぎんだろ。


「分かったかしら?」

「いや、なんでそんな意味のわからないところで張り合うんだお前は」

「あ、ならさ! あたしも雪川さんのこと乃絵留ちゃんって呼んでもいいかな?」

「……嫌。あなたにそう呼ばれるのは絶対に嫌」


 苦虫を噛んだような顔して言う雪川。

 どんだけ嫌なんだよ。


「雪川さんお堅いなぁ。まぁそれは追々呼ぶとして、それじゃ梶本くん。沙優って呼んでみて? ほらほら」

「ええ……? じゃ、じゃあ……沙優」

「え、えへへ、なんか少し照れるね」

「……っ! ねえ遥希っ、わたしは?」


 急にイラついた様子で俺に迫ってくる雪川。

 さっきといい、いちいち迫ってくる距離が近いし、もう少し近づいたからその大きな胸に……ごくり。


「どうしたの遥希、早く呼びなさいよ」

「な、なんで怒り気味なんだよ……」

「いいから!」

「分かった分かった……の、乃絵留」

「……そうね。これからは特別にそう呼ぶことを許可してあげるわ」


 乃絵留はやけにムスッとしながら言う。

 ったく、何が特別なんだか。


「ねえあんたら何やってんの? 皿洗いも終わったんなら帰るよ。もう19時だし」


 人見がそう呼びかけてくれたおかげで、こうして短いようで長い晩餐会はやっと終わったのだった。


 玄関先まで三人を見送ろうと、キッチンで俺がエプロンを取っていると、なぜか人見だけ戻ってくる。


「人見? どうした?」

「いや……今日は色々とあんがとね、ハルキ」

「ああ、って、あれ」


 いつの間にか人見まで……ハルキ呼びに。


 メシを作っただけなのに、クラスのトップグループの面々と仲良くなっていた俺だった。


 ☆☆


 ——そして翌日。


 5月下旬にある文化祭までちょうど残り1ヶ月となり、周りのクラスも徐々に文化祭に向けて動き出している。


 そんな中、俺と春原と雪川の三人は、職員室に来ていた。


「え゛……雪川さんもやるの、実行委員」


 佐藤先生は若干嫌そうな顔をしていた。

 まぁ、気持ちは分かるが。

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