第38話 文化祭会議はデカパイサンド
文化祭実行委員をやるとしても、今後の方針が決まらない限り動き出すことはできない。
という沙優の主張を聞き入れる形で、俺と沙優と乃絵留は大手カフェチェーンのスノートップスでフラッペを飲みながら話し合いをすることになった……のだが。
「わたしはマンゴーフラッペと、プレーンドーナツとスコーンとチョコドーナツと」
乃絵留のやつ……奢ってもらう立場だってのにガッツリいってんな。
沙優が昨日のお礼に、と奢ってくれると言っていたが、遠慮なく色々と頼む乃絵留。
相変わらずというかなんというか。
「沙優、色々と大丈夫か? 良かったら今日は俺が」
「だ、大丈夫大丈夫っ、あはは」
額に汗を浮かべながら、わちゃわちゃと手を震わせる沙優。小刻みに胸も揺れている。
これは……色んな意味で大丈夫じゃなさそうなんだが。
「ちょっとコソコソと何を話しているの二人とも」
「あのな乃絵留、お前には遠慮ってものが」
「お説教なら後にして……注文の品は席まで持って来てくれるそうよ、早く行きましょう?」
「え? し、支払いは?」
「支払いならわたしが済ませたわ」
乃絵留はクールにそう言うと、先を歩き出して2階の席へ向かう。
俺と沙優は乃絵留の背中に付いていく。
「え、でも今日はあたしが奢るって言ったのに」
「いいの。今日はわたしの奢りよ……わたしを実行委員に入れてくれた、お礼なの」
乃絵留は振り向き様にシャフ度でドヤ顔をしながら、俺たちにそう言った。
やけに遠慮なく注文するから違和感があったけど、最初から自分が奢るつもりだったのか。
それを支払い後に言うところが乃絵留らしいというか何というか。でも。
「乃絵留、ありがとうな」
「ふふっ……ちゃんとお礼が言えて偉いわね遥希。さすがわたしのコックよ」
ちょっと調子に乗るとこの言い方である。
クールなフリして中身はお調子者なんだよなぁ。
「乃絵留ちゃん、あ、ありがとう。やっぱり乃絵留ちゃんって優しいね」
「だから……わたしのこと下の名前で呼ばないで。あくまであなたとわたしは、同じ文化祭実行委員というだけだから」
やけに沙優にだけはずっと一線引いている乃絵留。
それだけ過去から抱いている沙優に対する気持ちがあるのかもしれないが……沙優は乃絵留と仲良くしたいと思うんだよな。
逆に乃絵留だって、本気で沙優大嫌いとかなら実行委員をやろうとは思わなそうだし、今みたいに奢ったりもしないはず。
(そう考えると本当は乃絵留だって沙優と仲良くしたいんじゃないだろうか?)
だが立場が立場なだけに、乃絵留からは仲良くしたいとは言えない難しい関係。
クラスの二極化がもたらす弊害というか、縛りがここに来て二人を離しているようにしか思えない。
「この席にするわよ……窓から外が見えるし」
乃絵留はそう言って、2階にある4人掛けのテーブル席の窓際に座って、外を見回した。
(外が見えるしって、子どもかよ)
俺は向かい側の席に座り、沙優は少し辿々しく乃絵留の隣に座る。
「そ、それじゃ! さっそく文化祭のこと決めようよ!」
「そうだな。沙優は文化祭で何をやりたいとか、考えがあるのか?」
さっそく俺が一番重要な点を聞いてみると、沙優はチラッと横目で乃絵留を見る。
「あたしは……また、飲食店がいいかなって」
「……っ」
それを聞いた乃絵留は、眉を顰めて難色を示すのだった。
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