第39話 文化祭についてドスケベな提案


「また……飲食を、やるの?」


 乃絵留は怪訝そうな表情で沙優へ問いかける。


 普段の乃絵留なら喜びそうなものだが、今回ばかりは慎重な様子だった。


 昨年の失敗が、やはり乃絵留を不安にさせるのだろう。


「昨年の文化祭、たこ焼きとお好み焼きのお店をやって……みんな楽しそうに焼いて、失敗して焦がしちゃってもみんな笑顔で」

「…………」

「あたしね、思うんだ。文化祭は完璧なことをやる場所じゃないんだって。学生らしくちゃんと失敗する場所で、みんなそれを承知の上で来てて、失敗はするけど、だからこそ思い出に残るし、楽しいんだなって」

「沙優……」

「乃絵留ちゃんも楽しかったでしょ?」

「だ、だからわたしのことは名前じゃなくて」


「楽しかった……でしょ?」


 乃絵留が逸らそうとした話を、沙優は真っ向から聞き直すことで戻す。


「ええ……まぁそうね。楽しかったわ。とても楽しかったし、美味しかった」


 乃絵留は素直にそう答えると、少し笑みを取り戻した。

 きっとそれは本心なのだと見れば分かる。


「でも……また飲食店にしたら、湯ノ原さんや、他のあなたの取り巻きが、香奈たちのことをよく思わないと思うの」

「それは、分かってる。確かに演劇やクラス展示にする手もあるけど……きっと昨年のことを根に持ってる人見さんたちは、きっと何も協力してくれないから」


 沙優の言うように、人見たちの性格からして、そうなるのは目に見えてるな。

 まだ昨年の恨みがあって二極化してるのに、今年の内容を別ジャンルにしたからといって、すんなり一致団結〜、なんて到底できるわけがない。

 人見たちはまた参加しないと言い出す可能性が高いよな。


「だからこそもう一回……昨年と同じ飲食店にして、仲直りしないとダメだと思う!」

「それはそうね。このまま演劇や展示にしても、香奈たちは協力するとは思えないし。それに、あなたにそう言われて……できればわたしも飲食店が良いと思えたわ。色んな意味で」


 これほどまでに『色んな意味で』と濁したはずの言葉が鮮明に聞こえるのは初めてなんだが。

 お前は自分がタダ飯食いたいだけだろ。


「遥希くんはどうかな?」

「あ、ああ、俺も概ね賛成だよ。人見やその他ギャル達は、自分たちが除け者にされたことをまだ根に持ってるわけだし。でもさ、具体的にどう両グループを納得させるんだ?」

「…………」

「…………」


 二人は急に黙りこくって俺の方を見てくる。

 お、おい待てこいつら……まさか。


(ここまで文化祭について熱く語っておいて、いい感じの雰囲気だけ出しておきながら、全くのノープランなのかよっ!)


「か、簡単なことよ……今回は遥希がいるわけだし、とりあえず遥希の絶品料理をクラスのみんなに食べさせて、それの効果でみんなと仲良くなればいいの」

「お前は自分のクラスメイトをサファ●ゾー●にいるポケモ●か何かだと思ってんのか」

「そ、それじゃ! あたしがみんなに呼びかけるよ! 仲良くしよーって!」

「それを昨年沙優はやったんだろ? それでも無理だったのに同じこと今年もやるのか?」

「う、うう……」


 二人とも目を泳がせながら焦って考える。


 マズイな……そもそもこいつら二人は胸がとんでもなくデカいだけで、根本的にアホと天然なのをすっかり忘れていた。


 ギャルたちが何も気にせずやれて、優等生グループも楽しめる飲食……。

 なんとなくだが、実は前々からぼんやり浮かんでいた案が一つあるが……これは、どうなのか。

 でもまぁ、このまま話が進まずにフラッペをちゅーちゅーして帰るよりはいいか。


「……なあ、一つ俺に案があるんだが、ドン引かずに聞いてくれるか?」


「「え?」」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る