第50話 ドスケベコスプレ貯金


 上手いこと言い包められた俺は、乃絵留と一緒に部屋へ帰ってきた。


「相変わらず狭いけど、適当なとこ座っててくれ」

「分かったわ。適当なところに座って『ドキッ! 元グラドルだらけの水泳大会! ポロリしかないよ?』を見させてもらうわ」

「見んなっての!」


 乃絵留は以前"ブツ"が隠してあった場所を漁りながら言うので、俺はすぐにそれを止めさせる。


「お前はほんと……はぁ」

「なに? まるでわたしがおかしいみたいに、大きなため息を吐くのはやめてもらえるかしら」


 実際、見た目こそデカパイ美少女だけど中身はおかしいヤツだろ。


「とりあえず今からご飯作るから大人しくしててくれ。今日はカレーとかでいいか?」

「待って……ドスケベコスプレであなたに相談があるから先にその話をさせてちょうだい」

「あ、あのな……今更だけど、普通の女子高生は『ドスケベコスプレ』なんてワードを口にしないものだと思うが」

「いいから。ドスケベコスプレはドスケベコスプレなんだから。座りなさい」

「はいはい……」


 よく分からないけどやけに強引な乃絵留に言われるがまま、俺はちゃぶ台を挟んで差し向かいに座る。


「それで? ドスケベコスプレの話ってなんなんだ?」

「ええ……まず、今の状況について、わたしなりに色々と考えてみたのだけど」

「今の状況?」

「冷静に考えて、今の状況はあなたにが無さすぎると思ったの」

「いや、何を言ってるのか分からないんだが」

「ご飯の話よ」

「ご、ご飯?」


 余計に何を言っているのか分からない。


 ドスケベコスプレとご飯がどう関係あるのか。


(よく分からんが……ドスケベコスプレで白米を食えってことか?)


「いくらわたしが食材を提供しているとは言え、わたしのワガママをあなたが受け入れて、料理をしてもらうこの関係において、あなたにメリットが全くないことに気がついたの」

「あ、ああ……じゃあ今の状況っていうのは、乃絵留が食材を提供してくれて、俺がご飯を作っているこの状況のことを指してるのか」

「そうよ」

「でも、それとドスケベコスプレとやらは一体全体、何の関係が」


「ドスケベコスプレ貯金よ」


「……は?」


 次から次へと突拍子のない難解なワードが飛び交うので、脳内処理が追いつかなくなる。

 マジで何言ってんだこいつ。


「これをすれば、あなたにも大きなメリットがあると思うの」

「なるほど分からん。まずはドスケベコスプレ貯金の説明から頼む」

「相変わらず察しが悪いわね」

「お前の説明力が皆無なんだよ!」

「はいはい」


 乃絵留は呆れ顔でため息をこぼすと、説明を始める。


「あなたがムッツリのドスケベなことは証明されているし、そんな遥希はわたしのような美少女ギャルにもドスケベなコスプレを着てもらいたいと思っている。それは否定しないわよね?」

「いや、否定も肯定もしないが」

「なら良かった」


 良くないが。肯定もしてないっての。


「そこで……これからもわたしが食材を提供して、あなたが調理すると言う関係は続けつつ、あなたにとってのメリットを増やすべきだと思ったの」

「それが……ドスケベコスプレ貯金ってやつなのか?」

「ええ。その通り」


 乃絵留は頷きながら話を続ける。


「今後は二人で食材を買いに行き、その際にできるだけ節約しながら食材を買うの。節約して余った分は貯金をして、いずれドスケベコスプレを買うの。そうすれば、わたしは美味しいご飯が食べることができて、あなたもいずれ溜まったお金で、わたしにドスケベコスプレを着せることができる。これはお互いにメリットがある関係になると思わない?」


 な、なんつう計画だ……頭を使ってご飯のメニューを節約すればするほど、乃絵留にドスケベコスプレを着せることができるなんて……。


「どうかしら? これなら遥希も喜んで頭を使いながら、わたしにご飯を作ってくれるでしょ?」

「ちょ、待て待て!」

「え?」

「俺は料理を作るだけなのに、お前は肌を脱いでエロい格好するとか、嫌じゃないのか!?」


 俺はまず、全力で乃絵留にその確認をした。


「もしかして……わたしの心配をしているの?」

「当たり前だろ。いくら俺にメリット? を与えるためとはいえ、乃絵留が嫌なことをやらせるのは、なんか違うと思うし」

「……はぁ、そういうところよね。あなたって」

「は?」

「わたしの性格からして、自分にとって嫌なことを自ら提案すると思う?」

「それは……確かに」

「言っておくけどあなた以外の男子にはこんな提案はしないわ。だからその心配は無用よ」


 乃絵留はそう言って、口元を緩ませる。

 お、俺以外の……そうなのか。

 いくら俺の料理が好きとは言え、乃絵留のハマり具合は相当だな。

 しかし、どうしたものか……。


「もしかして、わたしのドスケベコスプレじゃ、自分のスペシャルな料理には不釣り合いと言いたいのかしら?」

「そ、そうじゃないけどっ! な、なんつうか、その……」

「遥希は、目の前にいる女子からこんな魅力的なお誘いされて、キッパリ断るような男子なのかしら?」

「……っ! わ、分かったよ!」


 乃絵留が俺なんかのために、わざわざこんな提案をしてきたのに、恥ずかしいからって俺が誤魔化すのは……違うよな。


 もう乃絵留には色々と性癖やら何やらを知られてるんだから、今さらだ。

 俺は正直な気持ちになって乃絵留の方を向く。


「乃絵留の方からそんな提案してくれるなら……お、俺も乃絵留のコスプレ見たいに決まってるし、受けるしかないだろ?」

「ふふっ……」

「なんで笑うんだよ!」

「別に馬鹿にしてるわけじゃないわ。遥希のそういうところ、嫌いじゃないから」

「な、なんだよそれ」


 急にフォローされて、俺は反応に困る。

 ほんとこいつは、料理しろだの、急にドスケベコスプレするだの……ワガママ放題の美少女ギャルだが、俺にメリットがどうとか、以外とちゃんと考えているところがあって。


「とりあえずドスケベコスプレはネットで仕入れるとして、最初の目標設定と行きたいのだけど……遥希の希望はあるかしら?」

「お、俺の!? そうだな。ば、バニー、とか」

「……あなた、やっぱりなかなかのムッツリドスケベね」

「お前の提案だろうが!」


 こうして俺と乃絵留の関係に新しい約束事が生まれてしまった。あまりにもドスケベな約束が。

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