第49話 ドスケベのその先はやはりドスケベ


「好実たちが店に来てから30分ほど、色々見て回りましたけど……結論は、アレ、ですよね」


 店中のコスプレ衣装やウィッグを見た俺たち4人は、店を出ると示し合わせて結論を出すことに。


「あまりにもってことだよな」


 全員、苦い顔をしながら頷く。


「そもそも今日はコスプレってどんなものがあるのかなぁと思って見に来たんだけど……かなりするんだね」

「それはまあ、仕方ないよな」


 髪色の件でギャルたちのためにもコスプレ喫茶をやるという、短絡的な思考で決めてしまったわけだが……よく考えたら、コスプレ衣装は手軽に揃えられる品物ではない。


 となれば、次にやることは一つしかないわけだが。


「薄々こうなるとは思っていたけれど、これは作るしかないわね……」


 乃絵留は顎に手を添えながら呟いた。


(まあ……そうなるよな)


 でもそれが文化祭の醍醐味というか、文化祭ならではのものなんだろうけど……このクラスに限っては女子グループが真っ二つになってるからなぁ。

 それに服を作る上で懸念される問題が、高校からどれだけ費用をもらえるか、であって。


 既製品を買う金がない分、材料を多く安く買って作るわけだが、そもそもの資金がどれくらいあるのか把握しておかないと話は始まらない。


「なあ湯ノ原と沙優、そもそも文化祭の費用ってどのくらいなんだ? 昨年はお前たち二人がその辺もまとめてたんだろ?」

「うーん。学校から渡されるのはざっと1万と数千円くらいかな? そりゃ私立高校なら数万円とか貰えるみたいだけど、うちの高校は公立だし規模も生徒数もそこそこだから」


 1万数千円か……なんとも微妙なラインだな……。


 店の看板とかのダンボールで作れるものは、ほぼ0円と仮定すれば、コスプレ衣装の布などに充てることになるよな?


「コスプレ喫茶の細かいコンセプトについてはまだ話をしていないけど、ざっくり言うと調理係と接客係に分かれるんだよな? 接客係はコスプレする感じで」

「うんっ、基本的にはそうだと思う。あと入れ替わり立ち替わりで、バイトのシフトみたいに、時間ごとに交代する感じかな」

「なるほど……まぁ、それなら女子が接客係の方が客が来そうだが。その方がコスプレ衣装のタイプも絞れるし」

「ダメよ。男子あなたもコスプレしなさい」

「するわけねえだろっ」

「男子もやった方がいいですよ! 女子ばかりコスプレして気持ち悪い男性が群がるなんて、好実は嫌です!」


 もしその気持ち悪い男性が聞いたら9999ダメージを受けそうな発言だな。


「資金面はカンパするとして、男子も女子もみんなコスプレできるようにしよっか。あたしとしても真面目な遥希くんのコスプレ見てみたいし」

「そうね……ムッツリな遥希にはきっと女装が似合うでしょうし、白雪姫のコスプレでもしてもらおうかしら」

「するかそんなの! 男が白雪姫のコスプレとか、普通に黒歴史だろ!!」

「でもわたしは……見てみたいのよ、あなたの女装を。だって興味があるもの」

「どんな性癖だよそれ」


 乃絵留の特殊性癖はさておき、とりあえず今日はこんなところだよな。

 俺たちは店から離れて帰宅の途につく。


「とりあえず今後はコスプレ喫茶の方向性とかを決めて、あと1ヶ月で準備しないといけないな」

「好実もお手伝いしますよっ! なんでもお仕事をください!」

「あなた……仕事できるの?」

「できますよ! ね、沙優ちゃん」

「う、うん。好実ちゃんは器用で頭も良いから」


 沙優は末尾に「あたしと違って」と付けたそうに言った。


 まあ、何かとウザい口調のロリな湯ノ原だが、実際にはこの場にいる"見た目は"ハイスペックな二人なんかよりも、圧倒的に仕事ができるので一番頼り甲斐はあるんだよなぁ。


「じゃあ、あたしと好実ちゃんは帰りこっちだから」

「また明日〜っ」


 二人と曲がり角で別れると、俺は乃絵留と二人きりになった。

 なんかこの感覚、久しぶりだな。


 俺より少し低い身長で、色素の薄いストレートの長い髪を風に靡かせながら歩く超絶美少女。


 見た目だけなら、誰にも文句を言われないほど完璧なのに……中身はあまりにも。



「遥希……ちょっといいかしら。ドスケベコスプレについて少し話がしたいから、あなたのお家に行ってもいい?」


 ドスケベとか平気で言っちゃうヤバい女子である。


「い、いいけど……もうドスケベコスプレについては諦めろって何度も——」


 俺がドスケベコスプレの話はもういいだろ、と言おうと思った瞬間だった。


『ギュゥゥゥゥゥゥッッッッ』


「…………な、なんだ、今の音は」

「お、お腹よ。わたしの」


 こいつ、また腹が減って……って待てよ。


「まさかお前……ドスケベコスプレの話とか言って俺を釣っておいて、ちゃっかり晩飯食おうとか思ってただろ」

「ち、違うわ! ドスケベコスプレについて話しながらあなたにご飯を作ってもらおうと思っただけよ!」

「思ってんじゃねえか!」

「う、うるさいわね……あまり捻くれたことを言うなら、もうドスケベコスプレについてはお蔵入りにするわよ」


 捻くれてるのはどう考えてもお前だろうに。


「お蔵入りも何も、ドスケベコスプレとやらはやらないって話になったろ?」

ね」

「は?」


 何か、嫌な予感が漂い始めた。

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