第7話 雪川乃絵留と春原沙優の激突


 雪川が廊下から現れた途端、一気に俺の机へと視線が集まる。


 俺の机の左隣には優等生グループの中心人物である春原沙優はるはらさゆがいて、右隣には今来たギャルグループの中心人物である雪川乃絵留ゆきかわのえる


 その光景を見ているクラス中が、完全に凍りついた瞬間だった。


 昨年の文化祭から対立している二つのグループの中心にいるのは、この二人。


 俺の視界の左右には、豊かに育った大きな山が4つも聳え立っている。

 この光景は日本百名山に匹敵するかもしれない。


 さすがの春原も若干困り眉になりながら、驚いた顔をしていた。


 そりゃそんな顔にもなるよな……。


「お、おはよっ、雪川さんっ」

「……おはよう」


 二人が俺を挟んで会話をする様子は、異様な雰囲気があった。

 俺がこの高校に転校して来てから、この二人が会話する姿は一度も見たことがなかったので新鮮だ。


 春原って雪川のこと雪川さんって呼ぶのか……。


 春原はいつもの明るさをできるだけ消さないように振る舞っているようだが、それに対して雪川の方はいつも通りのクールで澄ました顔をしており、とても友好的な関係には思えない。


「えと、それでスープって何のこと?」


 春原は急にあまり触れて欲しくないラインの話を持ち出す。

 まぁ、でもこの状況で会話のネタを拾うなら、間違いなくこのプラスチック容器だよな。


「それは、その……」

「わたしが」


 俺が口篭らせていると、右隣にいる雪川が代わりにと言わんばかりに口を開く。


「わたしが……彼にスープを作ってもらった、ただそれだけの話」


 それだけの話、て。

 そんな言い方したらどう考えても変な関係だと思われるだろうがっ!


「へ、へぇ……二人は仲良しなんだねー」


 春原は驚きながらそう呟いた。

 ちゃんと誤解されている。


 雪川め……何考えてんだよ。


 一応、昨日の一件から雪川の本当の顔を知っているから分かるが、おそらく雪川は春原に対して好戦的な態度を取っているわけでも、挑発をしているわけでもないはず。

 その辺の人間関係的なところに関しては、まだ俺も掴めていない。


「えっと、あたしそろそろ戻ろっかな! またね、梶本くんっ」

「お、おう……」


 空気を読んだというかなんというか、春原は先に色々と察して俺の机から離れた。


 空気を読めるのも優等生って感じだな……どっかの誰かとは違って。


「あ、あのな雪川、お前は空気を」

「なに……? わたしは容器を返しただけなのに」

「それは、まぁ、お礼を言っておくけど……」

「けど?」


 ああ、もうまどろっこしい!


「お前さ、実際のところ春原のことどう思ってんだよ」

「……その話はまた、いつものスーパーでいい?」


 雪川はその透明感のある髪を整えるフリをしながらそう言って、自分の席に座る。

 いつものって……昨日一回きりだったろ。


 でも……やっぱりこの件は気になるし、行くしかないか。


 雪川にはぐらかされた俺は放課後、またあのスーパーへ向かうのだった。

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