第54話 デカパイなフレンズなんだね!


 カレーならコックパッドを見なくてもいいし、何より沙優と乃絵留が手伝ってくれたから、煮込んで置くまでの作業がいつもより断然、早く終わった。


「具材は煮込んだし、あとはルーを溶かしたら弱火で軽く置いとけばいいよな」

「意外と簡単なのね、カレーって」


 さっきまでルーを先に投入しようとした奴の発言とは思えないのだが。


 もしあの時ルーを先に溶かしていたら、野菜をぐつぐつ煮込んでいる間、鍋の中のルーがどうなっていたのか……考えるだけでも恐ろしい。


「でも意外とみんなでメシを作るのも楽しいな」

「そうよ……みんなで何かを作るのはとても楽しいの。わたしはこの楽しさを……文化祭で香奈たちにもわかって欲しいの」


 乃絵留は神妙な面持ちで言いながらも、昨年のことを思い出して唇を噛んだ。


「乃絵留……」


 普段は周りに無関心でやりたい放題の乃絵留だが、本当の乃絵留は誰よりも周りに気を配っている。

 乃絵留は色んな意味で素直で、口数が少ないから誤解されやすいだけであり、本心では周りと協力することの大切さを人見たちにも伝えようとしているし、ギャルグループが纏まるために自分から実行委員に入ったりするくらいだからな。


(あと、俺なんかのモチベーションを考えて、一肌(物理)脱ごうとしているわけで)


 乃絵留は無関心に見えて、本当は何倍も周りのことを考えているのだ。


「人見たちにも、きっと分かってもらえるよ。俺みたいなぼっち陰キャにも分かったんだし」

「遥希……一つ言っておくけど、あなたはもう、ぼっちじゃないわ」

「え、いや、でも俺は」

「わたしも春原さんもいるでしょう? だからぼっちじゃないわ」

「そうだよっ! あたしも乃絵留ちゃんも、とっくに遥希くんの友達だよ?」


 ふ、二人とも……そんなこと言われたら、嬉しいっちゃ嬉しいんだが。


 転校して来てできた俺の友達が、とんでもなく胸のデカい校内の二大美少女という……。


「遥希、あなたどこ見てるのかしら」

「な、なんでもない! 色々とありがとな乃絵留。そう言ってもらえると嬉しいっつうか」

「ふふっ……わたしのような美人が友達なのを、もっと誇った方がいいわよ遥希?」


 やっぱ腹立つなこのデカパイギャル。


「遥希くん、あと数分でカレーは完成かな? ご飯少し蒸らしておくね?」

「ありがとう沙優。やっぱり沙優は手慣れてるよな? よく料理するのか?」

「う、うん。両親が共働きだからあたしが晩御飯作ることが多くて。あと、好実ちゃんが遊びに来たら二人で作ったりもするんだー」

「へえー、代わりに家族のご飯を作ってるなんて沙優は偉いな」

「え、えへへ。そうかなー」


 照れる沙優……素直に可愛いんだが。

 しかし、親が共働き……か。


 どっかの誰かさんも似たような環境だと思ったが。


「どうしてそこでわたしの方を見るのかしら」

「別に、なんでもないが」

「悪かったわね? どうせわたしは見た目に全振りした超絶美少女よ」


 いじけながらもちゃっかり容姿を自慢してくるのは流石というかなんというか。

 まあ、実際のところ美少女なことには間違いないので反論できないんだが。


「遥希、もういいでしょ? 早くカレーを食べましょう」

「分かった分かった」


 やっと晩飯にありつけると分かると、乃絵留はいつも通り、普段は見せないような満面の笑みになるのだった。

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