第55話 爆乳とカレーとツンデレと


 カレーが完成して盛り付けが終わると、俺は美少女二人と一緒に食卓を囲んだ。


 丸いちゃぶ台を囲むようにして座り、右側には乃絵留、左側には沙優が座っていた。


 胸がデカすぎるからか、二人とも少しちゃぶ台に胸が乗っていて、そのどちらも見えるこの位置は、ある意味で神席と呼べるだろう。


(というよりも、この光景が当たり前になっていることが、色んな意味でおかしいんだが)


 そんなことを考えながら、俺はふとちゃぶ台に並んだカレーを見る。


 今回は特に凝ったことはしていない、シンプルなカレーになっているが、カレーという料理のポテンシャルを考えたら下手に手を加える方が不粋だ。


「なかなか、良い感じにできたわね?」

「うん! きっと乃絵留ちゃんが頑張ってくれたからだね」

「……ふん。お世辞も大概にして頂戴。どうせあなたも心の中では『乃絵留ちゃんは野菜洗っただけなのに』とか思っているくせに」

「そんなの思ってないよ! 本当に!」


 さっきまではあたかも自分が作ったかのような態度だった乃絵留だが、一応『野菜を洗っただけ』という自覚はあるのか。


 そういう天然に見えて、実はしっかり俯瞰的に物事を考えているところが、乃絵留らしいというかなんというか。


「沙優、乃絵留は捻くれてるから下手にフォローとかしない方がいいぞ」

「ちょっと遥希。わたしのどこが捻くれているのかしら」


 全部、と答えたら、おそらくカレーをぶっかけられるだろう。


「まあまあ二人とも。そんなことより、早くカレー食べよ? 冷めちゃうし!」

「……そうね」


 沙優に宥められ、俺たちはやっと晩飯を食べることに。

 乃絵留もメシのことになれば、沙優の言い分にも耳を傾けるようだ。


「んん……まぁ、美味しいわね。シンプルに」

「なんだよ、いつもと反応が違うじゃないか」


 普段の乃絵留なら、クールな面持ちをぶっ壊しながら「美味しい美味しい」と、ご飯を口に掻き込むのだが……。


「やっぱり乃絵留ちゃんは遥希くんのお手製じゃないと喜ばないのかも」

「カレーは俺も作ったじゃないか、どういうことだよ」

「まぁ……乃絵留ちゃんの気持ちも分からなくはないけどね」


 沙優は何やらニヤけながら乃絵留の方を見る。

 すると乃絵留はその視線を感じ取ってスプーンを置く。


「あ、あなたがわたしの気持ちを? あなたみたいな全く真逆の人間に、わたしの何が分かるというのかしら」

「別にー? でも、乃絵留ちゃんって一途な乙女なんだなーって」

「だから何を言っているのか分からないのだけど」

「お、おい二人とも、よく分からないけど言い合いすんなって。ほら乃絵留、また今度ちゃんと作るから機嫌直せよ」

「別に機嫌は悪くないのだけどっ!」


 どこからどう見ても悪いだろ。その反応は。


 乃絵留がずっと不機嫌だったものの、晩飯は恙無く終わっていくのだった。


 ☆☆


 晩飯後、沙優は自分の家のご飯も作るために先に帰り、また乃絵留と二人きりになってしまう。


 カレーやら、文化祭やら、ドスケベコスプレ貯金やらで、俺たちの間の会話は渋滞しているからか、絶妙な気まずさだけが部屋の空気中を漂っていた。


 一体、何から話すべきか……。


「な、なあ乃絵留。とりあえず食器洗い、手伝ってくれるか?」

「ええ……構わないわ」


 いつもなら「わたしにやらせるのかしら?」なんて言いそうな乃絵留だが、沙優が帰ったことで少し機嫌を直したのか、素直に応じてくれた。


 俺と乃絵留はシンクの前に並びながら、カレー皿と鍋を洗うことに。

 あれだけあったカレーも、乃絵留にかかればペロリ、といった感じだ。


「さてと、俺が洗うから、乃絵留には乾拭きを頼んでも」

「……ねえ遥希、ちょっといい?」

「ん? な、なんだよ改まって」


「遥希に……会ってほしい人がいるの」


 ……は? まさか……これって……。


「これからのために、大切なこと、だから」


 突然、乃絵留からそう言われ、自然と俺の心臓の鼓動は早くなっていた。

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