第31話 デカパイ山脈とサラダボウル
料理に取り掛かる前に、俺は一通り冷蔵庫にある食材を見回す。
(とりあえず野菜室の野菜で昨日みたいな簡単なサラダを作るとして……あとはメインをどうするか、だな)
昨日、雪川が爆買いして持ってきた肉がまだまだあるなぁ……残りは豚のこま切ればっかだけど。
ん、こま切れ……か。
俺は東京からこっちに来る前に、一緒に住んでいた祖母から教わったとある料理を思い出す。
『ハルくんは覚えるの早いねぇ……これならあっちで一人暮らししても大丈夫だねぇ』
ばあちゃんが、教えてくれた肉料理。
よし、あれで行こう。
「うーん……じゃがいも、まだあったよな」
今回はコックパッドじゃなくて完全にばあちゃんのレシピだが……アレは間違いなく美味いはずだ。
俺の中で料理のプランが整ったところで、俺はキッチンから部屋の様子を伺う。
あいつらの方はどうなったかな。
「あの! 憧れるけど、あ、あたしはギャルになりたいわけじゃなくて!」
「……は? そ、そうなん?」
春原からギャルにならないことを伝えられると、少し残念そうに人見は返事して上がっていた腰を下ろす。
(あいつ……狂犬みたいに噛み付くタイプに見えて、仲間になると意外と優しいんだよな。俺の場合もそうだし)
「……そもそも、春原さんはなぜ遥希から料理のことを聞いたのかしら? またお勉強会でもしたの?」
雪川は俺の方を一瞥しながら春原に訊ねた。
「えと……実はあたしと梶本くんが、文化祭の実行委員になって、その時に梶本くんとお二人が仲良くなった理由を聞いたというか」
「私と転校生は仲良くねえし!」
「ちょっと香奈、今はそこじゃないわ……あなたと遥希が文化祭の実行委員?」
人見が話をややこしくしようとしたが、それを制して雪川がちゃんと実行委員のことを聞いてくる。
これに関しては春原から話させない方がいいな。
俺は洗った野菜をまとめてサラダボウルを作ると、取り皿と一緒にちゃぶ台へ持っていく。
「今、春原が言った通りだ。優等生グループを代表して春原が、ギャルと男子を代表して俺が文化祭の実行委員に選ばれた」
「は? なんで勝手に私ら代表してんのあんた」
「先生に言ってくれよ! 俺はお前らを代表したくもなかったし、男子なんか体育の時しか話したことない!」
「あ……いや、なんかごめん転校生」
「急に憐れむなよ! 悪意あるからなそれっ」
「やっぱりサラダは……マズイわね」
「お前は少し話に参加しろ!」
ほんと、あっちもこっちも……。
俺は大きなため息を溢す。
「そもそも……うちの高校は行事に実行委員を置かないんじゃなかったのかしら?」
「そうなんだけど、佐藤先生があたしと梶本くんにって……」
「……そうね、遥希は料理が上手いから、今年は素晴らしいお好み焼きを作ると思うわ」
「って、乃絵留あんたこそ、そこじゃねえし! そ……そもそもさ、なんで私らのグループが文化祭に参加することになってんの」
「……っ」
ついに人見が春原に向かって牙を向いた。
人見に睨まれた春原は言葉を失う。
おそらく昨年のことを思い出しているのだろう。
完全に空気が凍りついた……その時だった。
さっきからウサギみたいにモキュモキュサラダを食っていた雪川が、やっと箸を置いたのだ。
「香奈……ちょっといいかしら」
最悪の空気の中——意外にも雪川は、春原のことを助けるかのように話を遮った。
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