第13話 ギャルグループへの誘い


「雪川……い、今なんて」

「だから、あなたもわたしたちのグループに入ったらどうかしらって……言ったの」


 晩飯を食べている最中、雪川が何を言い出したかと思ったら、ギャルグループへのお誘いだった。


 お、俺が、ギャルグループに……っ!?


「む、無理無理! 俺、日サロとか行く金ないし! 髪染めたりメイクしたくないし!」

「いや、どう考えても乃絵留は、あんたのことギャル男とかにしようとか思ってないでしょ」

「でも、お前らのグループに誘うってことは、そういうことなんじゃ?」

「……違う、わたしが言いたいのはそういうことじゃないの」


 相変わらず言葉足らずというか、じゃあどういうことなんだよ、と俺は一言だけ文句を溢しながら、雪川の話を聞く。


「あなたは……なんていうかその。春原さんたちの優等生グループとは気が合わなそうだし、これからはわたしたちと仲良くすればいいと思ったから」

「はあ? なんだよそれ」


 そんなことで俺をギャルグループに引き入れようとしてるのか?

 そもそも男の俺がギャルグループとか、普通に意味がわからないんだが……。

 絶対、何か裏があるな。


「雪川、怒らないから本当の理由言ったらどうだ」

「……う、美味いバンメシを、食べたいわ」

「はあ?」

「あなたがもし春原さんたちと仲良くなったら、絶対わたしたちとは距離を置くだろうし、そうなったらこのご飯を食べれないと思うと……残念で仕方ないの」

「お前、自己中な上に欲望に忠実すぎるだろ」


 どうやら雪川は、よっぽど俺の料理が気に入っているらしい。

 別にこんなの、コックパッドを使えば毎日食えるのに……なんでまた。


「乃絵留に誘われてんだから受けてもいいよ転校生。男とか関係なく、私は別に何でもいい。でも私らのグループに入るなら春原たちとは絶縁してもらうから」


 そりゃ、優等生グループが嫌いな人見はその辺を気にするよなぁ。


「あ、あのな、そもそも男の俺がギャルのグループに入るわけないだろ? なあ雪川、俺はグループには入らないけど、お前たちとは今後も普通に接するようにするから。晩飯だって食材を持って来たら作ってやるし。それで勘弁してくれよ」

「ダメ……それだと今朝みたいに春原さんと仲良く話したりして、いずれはあっちのグループと連み始めそう」


 雪川は疑心に満ちた目で俺を見て来る。

 そんな浮気性の夫を疑う嫁みたいな……はぁ。


 どうしたものか。

 ぶっちゃけクラスの男子には、グループとか派閥とかがあんまりないので、女子のグループの事情なんて関係ないのだが……。


 でも、ここで断り続けるのも、なんか……俺なんかに話しかけてくれた雪川に悪い気もしてしまう。

 さっき聞いた人見の話が本当なら、雪川は、こんな俺のことを心配してくれてたわけで。


「……わ、分かった。どうせ俺はぼっちだし、雪川がそこまで言うなら、いいよ。だが言っとくけど、ギャルの趣味には付き合わないからな」

「ほんとに?」 

「あ、ああ」

「ふふっ……やった」


 雪川は嬉しそうに口元を緩ませると、またご飯のおかわりをするために炊飯器を開いた。


「意外だわ。乃絵留が粘っても断ると思った」

「そう言う人見こそ、もっと反対しろよ。普通に嫌だろ、俺みたいな陰キャと仲良くなるなんて」

「……別に、乃絵留が決めたことなんだから、私はとやかく言う筋合いがないだけ。本当はあんたみたいな陰険な奴と絡むのとか嫌なんだけどね」


 そう言って、人見も炊飯器の方へ手を伸ばす。


 優等生グループと近しくなって欲しくないという、雪川のあまりにも勝手な願いにより、俺はなぜか女子のグループに入る? ことになってしまった。


 グループに入るってことは春原とも話せないってことかもしれないし、明日からの学校がどうなることやら……。


「ちょい乃絵留! あたしも米欲しいんだからそんなに盛るなし!」

「……ダメ。盛るわ」


 とりあえず二人とも……俺の家の米を全部食わないでもらいたいんだが。

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