第21話 後悔と正義(1)

 「それで」

と、ずっと初子はつねの話をきいていた友梨咲ゆりさが言う。

 「そのおじいさん、弁護士を引退して書道家になったんだっけ?」

 美和と同じことが気になっていたらしい。

 「いや、弁護士をやってる途中から、書とかやってたけど」

と初子は答える。

 「わん!」という声は入らない。

 そろそろシュー君はまた急ぎたくなってきたのか。

 リードを引っぱって前に行こうとする。

 それとも、シュー君のペースは変わらず、少女たちのペースが落ちたのかな?

 そんな感じもする。

 「まあね。犯罪の犯人から習ったんだよね、その書っていうの? しかも、自分で弁護を担当してたのではない人から」

 「は?」

 なんか。

 いきなり話が重くなった。

 初子が言う。

 「御積みつみ事件……って知らないよね? 前にわたしが住んでた、その、よどの向こうのほうで起こった殺人事件で、お父さんの世代より上だとみんな知ってるらしいんだけど」

 「うん」

 美和みながうなずく。

 美和はきいた覚えがない。

 御積みつみやまというのは、この前、初子が撮りに来た小清おさやかやまの隣の山だけど。

 それと関係あるのかな?

 友梨咲は

「なんか、聞いたことあるかも」

と答える。

 「なんか、殺人事件だったと思うんだけど」

 友梨咲は知ってるのか。

 「うん」

と、初子はうなずいた。

 「御積って言っても、御積山じゃなくて。こっちから言うと、澱小学校のまだ向こうに、御積中学校ってあるでしょ? あの近くなんだけど」

 じゃあ、ほんとうに、その初子の昔の家の近くのはずだ。

 「そこに住んでた実業家っていうのかな? 事業にお金を出したり、お金を貸したりしてた人だけど、そんな人が自分の家で殺されてね。それで、街の若者? まあ、悪い仲間とつるんで、いろいろ悪いことをやってた若い人だけどね。それが捕まったんだ。その若い人が自白まではしたんだけど、裁判になって、自分はやってない、取調官に「自分がやったって言うと早く外に出られるようにしてやる」って言われてそう言っただけだ、とか言い出して」

 「それって」

と、シュー君のリードを引っぱりながら、または、シュー君にリードで引っぱられながら、美和がきく。

 「冤罪えんざいとかいうやつ?」

 「わんっ!」

 いや、シュー君が答えなくてもいいんだけど。

 初子が答える。

 「まあ、冤罪だって主張して、弁護を頼んできたんだよね。で、その弁護、だれがやる、って話になって、若いやつの弁護ならうちのおじいちゃんでしょ、現場から家も近いし、っていう話になって。で、その若者って人、犯行時刻ってされてた時間にはアリバイないんだよね。家にいた、っていうんだけど、だれもその姿を見てない。どうも、ほんとうに家にはいなかったっぽい」

 「うん」

 ダメじゃん。

 それ。

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