第13話 アイドルみたいで色っぽい
毛糸の帽子と手袋はここに着くまでのあいだに取っていた。
カメラに対して体を斜めに向け、腰のところで手を組んで手のひらを下にする。右足を後ろに引き、体を軽く反らせる。
その姿勢で、斜めにカメラを見る。
「あー、もうちょっと体、右。っていうか、右回り。あ、うん。そんな感じ。それ以上行くとせっかく組んだ手がわからなくなっちゃう。それで、顔、ちょっと左に傾けたほうがいいかな?」
「ああ、こう、うつむいた感じ、いいね。いや、顔上げないで。そのままで行こう。じゃ、
と声をかけられて、美和は自分の役割を思い出した。
初子の横に立って、スマホで写真を撮らないと。
美和がリードを持って初子の横に移動しても、リードに余裕があるので、ふて寝を決めこんだシュー君は反応しない。
もしかすると薄目で美和の動きを追っているのかも知れないが、動かない。
「じゃあ、行くよ」
と言って、初子は友梨咲に合図を送り、写真を撮った。
今度は催促されない前に美和が初子にスマホの画面を見せる。
「うん」
初子はとても機嫌よさそうにのどを鳴らす。
やっぱり、猫っぽい。
美和は自分が撮ったスマホの写真を見てみた。
ふうん。
そのタイミングで初子が
「どう?」
ときくので、
「なんか色っぽい」
と、感じたことをそのまま言ってしまった。
それで初子の顔を見ると、顔をくしゃっとさせて笑って目を細め
「ありがとう」
と言った。
こういう表情も猫っぽいんだな。
さっきの写真では、友梨咲は、普通に高校生らしかった。
中学校を卒業した「少女」という感じだったが、今度のはその年代のアイドルみたいで色っぽい。
白いジャンパーの下に白いニットのセーターを着て、白タイツで、スカートだけが赤い。顔はほんものよりはちょっと暗めで、色が濃く見える。その暗く映った顔で、もの問いたげに上目づかいでこっちを見ている。唇もそれに合わせてあいまいなスマイル。
初子のお父さんは、いまは戦場を撮っているというが、もともとはアイドル写真家になりたかった、と、初子は言っていた。
初子もアイドル写真の撮りかたを習ったのだろうか?
写真を撮ることについては、親に反発したと言っていたけれど。
「じゃあ、もうちょっと近づいて、上半身だけ撮るね」
と初子は言う。
ほんとうに撮影会みたいになって来た。
初子は一人で三脚を持って何歩か前へと学校の坂を上る。
手伝ったほうがいいかな、と思ったけど、美和は片手で友梨咲のスマホを持ち、片手でシュー君のリードを握っているので、手伝えない。
シュー君は寝ているので、リードを持った美和が動いても動かない。
さっきは「ふて寝」だと思ったけど、いま見ると、ただ、穏やかに寝ているのでは?
坂道をがんばって登って、疲れたかな?
シュー君。
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