第12話 古いカメラで写真を撮る(2)

 最初の写真は、お行儀よく、両手を腰の横に下ろして、正面を向いて撮った。

 正式の記念写真という感じだ。

 初子はつねがそのレリーズというものでシャッターを押す。

 そのタイミングに合わせて、美和みな友梨咲ゆりさのスマホで友梨咲の姿を撮る。

 初子の写真が友梨咲をどれぐらいのサイズで撮ったかはわからないので、空が上のほうに少し写り、後ろに小さく坂の上の門が写るくらいにズームして撮った。

 シュー君は美和の横に座っている。

 「写真を撮る」という行いが理解できないのか、写真より初子が気になるのか、友梨咲のほうは見ず、美和は通り越して初子のほうに顔を上げている。

 初子が気になるとして、それは、シュー君もやっぱり美少女のほうがいいからか、それとも初子が猫っぽいからか。

 「美和ぁ」

とその初子が声をかけた。

 「ちょっと、スマホでどう撮れてるか、見せてくれる?」

 「うん」

 やっぱり、初子も、すぐに仕上がりが確認できないカメラでは不安なのだろうか。

 「ん」

と、美和が友梨咲のスマホの画面を見せると、初子は

「うーん」

と首をかしげた。

 「スマホのカメラでも、背景に空を入れると、顔、暗めになっちゃうな。フィルムカメラだともっとだね」

と、初子は美少女の美声で言う。続いて、顔を上げて

「友梨咲、ちょっと来て!」

と呼んだ。

 友梨咲が初子と美和のところに来ると、シュー君は立って友梨咲のほうに二‐三歩進み、後足で立って友梨咲の足へと身を伸ばす。

 ああ、それは、ご主人様のほうがいいよね。

 友梨咲は慣れた手つきでその両前足を両手で軽く握って握手するようにほいほいほいと揺すってやる。それで手を放すと、シュー君は前足を着地させた。

 友梨咲は初子の手もとをのぞきこむ。

 シュー君も、友梨咲と美和のあいだに立って顔を上げ、下から初子の手もとをのぞきこむ。

 美和と初子はもともとスマホをのぞきこんでいるので、全員で友梨咲のスマホを囲むことになったが。

 「こっちのカメラも、写真を仕上げるときに明るさの調整、できるんだけど、このスマホカメラよりも明るさの調整が効きにくくてさ。顔が暗くなっても空が青いほうがいい? それとも顔が明るくなって空がほんものより白っぽくなってもいい?」

 同じようなことを、初子に最初に会ったときに聞かれたな。

 「わんっ! わんわんっ!」

 あー。

 シュー君が好みを言っても、人間には伝わらないんだ。

 ごめんね。

 「わたしは空が青いほうがいいかなぁ」

 友梨咲が言う。

 初子が

「いまのアプリ使えば、明るさ合成ができて、空も青くて顔も明るく、とか、処理できるんだけど」

と言うと、友梨咲は

「せっかくそのカメラで撮るんだから、その初子のカメラらしい写真になったほうがいいと思う」

と、優しい、明るい声で言う。

 友梨咲、せっかく色白なんだから、顔が明るく写ったほうがいいと美和は思う。

 自分では、どう考えているのだろう?

 「じゃあ」

と初子が言った。

 「今度は、おんなじように全身像だけど、友梨咲の好きなポーズとってみて」

 「わんっ、わんっ!」

 友梨咲が写真に写りに戻ると、シュー君もいっしょに行こうとした。

 美和が無情にリードを引っぱって引き戻す。

 「わんっ!」

 シュー君が振り向いて抗議する方向が初子。

 この場を仕切っているのがだれか、シュー君は明確に認識している?

 それとも、やっぱりただ猫っぽいから?

 「ああ、いい子だねぇ、シュー君!」

 カメラを調整しながら、初子が言う。

 でも、残念ながら、カメラをいじっているので、シュー君を撫でてあげることはできなかった。

 「次の、次の、次は、シュー君撮ってあげるからねー。まっててねー」

 次の次の次、って……。

 ……それ、シュー君、理解できるのかな?

 果たして。

 「わんっ! くぅーっ……」

 その場にしゃがんで、コンクリートの上でふて寝ポーズに入るシュー君!

 あ。

 ねた。


 * 次回の更新は11月2日(土)午前6時です。二日ほど更新が滞りますが、よろしくお願いします。

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