第38話 妖怪の家?
「あ、家のなかも靴のままでいいから」
と言って、まず
シュー君は最初は警戒して入りたがらなかった。でも、友梨咲がひょいと抱き上げると
「くぅ~?」
と短く鳴いたが、抵抗はしなかった。
友梨咲、さすが飼い主だ。
リードはいまも美和が握っているけど。
こうして四人と一匹で玄関に入った。
入ってしまったのはいいが。
「あ、ちょっと車、車庫入れするから」
という巡査長の声とともに、扉が、ばたん、と閉まる。
「えっ?」
そこは、西香純巡査長の家……?
家具はほとんどない。
天井には、もともと照明器具がついていたんだろうな、という痕はあるけど、照明器具そのものはない。入ったところは台所らしいけど、テーブルは、キャンプとかで使う折りたたみ式のテーブルが一つ、その上に、やっぱり、キャンプとかで使うランタンと湯沸かし道具が置いてある。
隣の部屋は畳の部屋らしいが、畳ははがされていて、畳の下の木がむき出しになっている。
それが、玄関の横の不透明な飾りガラス窓から入ってくる光に浮かび上がっている。
どう見ても、空き家に勝手に上がり込んで生活している何者かの家だ。
シュー君を抱いて立っている友梨咲も含めて、みんな玄関のところで突っ立ったままだ。
不安なのも不安だし。
けっこうきゅうくつ。
「おい」
と矢畑さんが言う。
声が高いのは、緊張しているからだろうか。
「おれたち、閉じ込められたんじゃないだろうな?」
そのことばに、どきっ、とする。
もし、あの警察の紋章がにせものだったら。
または、何者かが警察官に化けているのだったら。
「うーふーふーふーふーふっ! 引っかかったわねえ」
と言って空気のなかから煙のように現れる、西巡査長に化けていた、姿形も見定められないようなどろどろした妖怪……。
「さーあ、だれか食べてあげようかしら」
ま。
初子だな。
まず、初子。
背も高いし。
猫っぽいし。
いまは革っぽい服を着てるから、なおさら動物的でおいしいだろう。
「うん?」
その初子が、そんなかわいい声を立て、後ろを向いて、ドアのノブを回している。
がた、がたというだけで開かない。
「あれ?」
ほんとに開かないのか!
……と、心臓が冷たくなったところで、初子が
「うんっ」
と力を入れてドアを上に引っぱってから押すと、いきなり、勢いよく開いた。
「くうーっ……」
みんながほっとした気もちを、シュー君が代表する。
「ああ。だから開けたりしないで、靴
美和がのぞきこむと、ちょうどその外で車庫入れをしていた西香純巡査長が、車の左側の窓を開けて、初子に言っているところだった。
西香純巡査長は、みんなの顔が見えるところまでちょっと車を後ろに下げて、止めて、また左の窓まで身を乗り出して、言う。
「あんまりここに
薄曇りの朝の光の照り返しを受けた西巡査長の顔は明るく健康的だ。
で。
どうして、見られてはよくないのだろう?
やっぱり、西巡査長、警察官とは裏腹の、暗い正体を持っているのだろうか?
そうだとすると、逆らうと怖い。
そうでないとすると、警察官として正当な判断で言っているのだろうから。
美和が靴のままで玄関から上に上がると、ほかのみんなもついて来た。
シュー君は床に下ろしてもらい、美和にリードを握られたまま、あちこちを
しっぽを振っているから、あんまり警戒はしていないようだ。
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