第9話 シュー君の方向性
「シュー君、行方不明になるんだ?」
と
シュー君のリードは友梨咲が握り、その左斜め後ろに白っぽい革っぽい服の
美和はその右隣。
初子がカメラとか三脚とかの入ったバッグを左側に持っているので、美和は右についたのだけど。
行く方向は、もちろん、初子の豪邸または猫屋敷とは反対の方向だ。
「まあ」
と友梨咲が美和の問いに答える。
「シュー君ね。何か興味があるものを見つけるとだーっと走って行って、何か怖いものに出会うとわーっと逃げ出して、猫見つけるとどーっと追いかけて、それで方向性見失っちゃうんだ」
友梨咲が実感をこめた言いかたで言う。
そのシュー君はリードをいっぱいに引っぱって前を歩いている。
自分についての話だから聞かないことにしているのか、そんなのはどうでもよくて早く行きたいと気がせいているのか。
「方向性見失うことはわたしもよくあるけど」
初子が言う。
猫っぽいからな。
でも、犬が見失う方向性と、人間の見失う方向性は違うのでは?
その猫っぽい初子は続けて
「でも、戻って来るんでしょ?」
と聞く。
それは、「方向性」を見失ったままだとすると、いまここにいるわけがないからね。
シュー君。
初子もかも知れないけど。
「まあ、最長三日だったかな」
友梨咲も普通に答えている。
「最初のころは、お母さんもすごく心配して、お散歩コースを二回三回と回って見つけようとしたりしたけど、こっちから捜すとどこにもいなくて。でも、朝とかご飯の時間とかになったら、門から
つまり、いままで四回を超える回数、方向性を見失って行方不明になってるんだな。
しかも、朝とか、ご飯の時間とかには、見失った方向性を取り戻すらしい。
シュー君は。
たぶん、いいことなのだろうと美和は思う。
道は白姫神社の横に出た。
白姫神社には、小学校の低学年のころまで、美和はおばあちゃんに連れられて毎月来ていた。
お
だから、白姫神社の中が急な坂で、だらだらと石段が続いているのは知っている。
その坂道の上を「こんもり」というには
昼間も暗い。
それも、しんみりと心が落ち着く、という以上に、何か別世界にきたみたいに暗い。
小さい美和には、ちょっと怖い場所だった。でも、次におばあちゃんに
「いっしょに行く?」
と聞かれると、必ず
「うん」
と答えていたから、怖くても行ってみたい場所だったのだ。
今日は、シュー君を連れた三人は、その神社には入らないで、神社の横をぐるっと回る道を上がっていく。
こちらも上に神社の木の枝がかかったりしているけど、そんなに暗くはない。坂は急だけど、普通の道だ。
その坂道を、元気なシュー君に引っぱられるようにして上がる。
シュー君の方向性としては、この坂はさっさと登ってしまいたいのだろう。
人間の女の子がその方向性について来てくれないので、もどかしがってせかしているようだ。
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