第58話 クモ女予報!(1)

 友梨咲ゆりさのお母さんは玄関を入って家に戻った。

 次は初子はつねが帰る流れだ。

 その、豪邸に。

 または、猫屋敷。

 初子は、美和みな

「来る?」

と言った。初子の家に、ということだろう。

 けど、美和は

「いや。またの機会に」

と答えて、今日は行かないことにした。

 朝からいろんなことがあったから、いちど家に帰りたい。お母さんも、朝早くからあまり長い時間美和が帰らないと、行き先について連絡を入れておいても

「いちど帰って来なさい」

と言うだろう。

 それに、これからは初子と同じ学校に通うのだから、その豪邸に行く機会はいくらでもあるだろうと思った。

 ところが、

「じゃ、明日は、学校で」

と初子が美和に言って、バッグを持ち上げたところで、

「あ、ちょっと」

と友梨咲が初子を呼び止めた。

 「うん?」

と、首をかしげた初子が、かわいらしい。

 「初子も美和も白高しらこう行くんだったらさ」

と友梨咲が初子と美和を順番に見て、言う。

 「学藝がくげいから白高に」

 友梨咲が通っていた学藝中学校のことを言っているのだろうけど。

 ちょっと、何を言うか迷うようにことばを切ってから、友梨咲は

「クモ女っていうのが行くはずだから。ちょっと変わった子だけど、よろしくね」

と言う。

 クモ女……って。

 「何?」

と、美和が言う。

 「異様にねちっこいの?」

 網張って待ってるとか?

 捕まるとねばねばで絡め取られるとか?

 「あ、違う違う」

と友梨咲は言うが。

 何が違うんだろう?

 「そうじゃなくて、クモ女とか雪女とかいうんだけど」

 さらに、謎。

 クモ女と雪女では、だいぶイメージが違うと思う。

 だいたい、「蜘蛛くもの女」だとすれば、「クモ女」と言うときのアクセントが何かへんなのだが?

 「あのさあ」

と友梨咲がおもしろそうに説明を始める。

 「学藝、ああいう場所だから、川路かわじの盆地の上って、教室の窓から空が広く見えるのね」

 「うん」

 そういえば。

 その盆地の朝の写真をりに行ったはずなのに、けっきょく撮らずに帰って来た。

 いいのかな?

 初子的に。

 友梨咲は説明を続ける。

 「で、だから、空に雲一つないと、気もちいい、って思うじゃない?」

 「まあ、そうだな」

と美和が反応する。

 友梨咲は、楽しそうだ。

 「ところが、その子、さ。教室の窓から、その気もちのいい晴れの空を見て、ため息ついてるの。それで、どうした、って声かけたら、雲が出てないからつまんない、雲が出てたら観察できるのに、とか言ったんだよ!」

 はあ。

 「それと、また別のときだけど、なんか、スマホで気象衛星画像を開いて、あ、あそこに見える雲が、衛星写真に写ってるこの雲だ、とかで、感動してて。わたしとか、見ても、はあ、それで、って感じなんだけど、なんか、感動してるの」

 「ああ、それで」

と初子が何か納得したらしい。

 「雲が好きだから、くもおんな?」

 「そう!」

 そういうこと?

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