第57話 帰還

 友梨咲ゆりさのお母さんが出て来た。

 「うわー。早かったわね、みんな」

 早かったのか?

 遠くまで行って、しかも右馬うますけさんの話まできいて、むしろ、遅かったと思うんだけど。

 「うん」

と友梨咲は平気だ。

 「帰り、警察の人に送ってもらったから」

 何の説明もなしにそう言うか!

 お母様が心配なさる、とかじゃないだろうか、と思ったら。

 友梨咲は平気で西にし香純かすみ巡査長の名刺を渡している。

 「まあまあ」

 友梨咲のお母様。

 名刺をじっと見ているが、それほど心配しているわけではなさそうだ。

 「またシュー君が行方不明になったの?」

 それ……?

 つまり、友梨咲のお母さんは、シュー君が行方不明になり、西香純巡査長がシュー君を見つけてくれた、と思っているのだろう。

 「いや」

と友梨咲が言う。

 「シュー君なんだけどね」

と困ったように言うと、

「わん!」

 ……あんまり、抗議している様子ではない。

 シュー君。

 「シュー君が立入禁止のところに突進したら、それがけっこう危ないところだったらしくてさ。それで、シュー君もわたしたちもなんともなかったんだけど、近くにいたその巡査さんが心配して出て来てくれた」

 嘘は言ってないけど。

 なんともなかった、というか。

 そんなことはないと思うけど。

 友梨咲は右馬うますけさんに突き飛ばされたし、初子はつねは自転車で逃げる右馬之祐さんの前に立ちふさがって転ばせたし。

 けがはしていないけど、もし何かが違っていたら、だれかがそこそこのけがはしていたと思う。

 「まあ」

と友梨咲のお母さんは言う。

 「あとで西巡査長には電話でお礼を言っとくね」

 「わんっ、わん!」

 いや、シュー君が返事しなくていいんだけど。

 でも、たしかに、シュー君もけっこう巡査長のお世話になってたな。

 半分は警察の犬になってたしな。

 友梨咲のお母さんは、続けて

「ああ、初子ちゃん」

と、白っぽくて革っぽい服の初子のほうを向いて言う。

 「さっき、ニュースで、アルケリのトラシスクってところを独立軍がミサイルで攻撃した、とか言ってたわよ」

 「独立軍、もうろくなミサイル持ってないはずなんですけど」

 初子の反応は、それ。

 まあ。

 情勢、詳しいんだろうけど。

 「でも、トラシスクだったら、父のいるところとは逆側ですから、だいじょうぶだと思います」

 「なら、よかったけど」

と友梨咲のお母さんは、ほっ、と鼻から息をついた。

 ミサイルが当たったなら、だれかは傷つくか死ぬかしているはずなので、「よかった」というわけにもいかないが。

 まあ、初子の家族ではなかった。

 「心配してくださって、ありがとうございます」

と初子がお辞儀すると、友梨咲のお母さんは

「まあ、使命感で行ってらっしゃるんだから」

と言う。

 「父と母には、上地かみちさんが心配してらした、って、ちゃんと伝えておきます」

とにこっと初子は笑った。

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