第59話 クモ女予報!(2)

 「あと、学藝がくげいってああいう山の上のほうだから、寒いのね。でも、雪降ったらなおさら寒いから、休み時間でも、みんな教室のなかにいるのね」

友梨咲ゆりさが続ける。

 「うん」

 そのしろひめの伝説で、悲運のお姫様が雪を降らせてくれることになっていたが。

 たしかに、年に何回かは、雪が降る。

 そして、雪が降ったら、普通は教室のなかにいるだろう。

 「ところが、その子、校庭に出て、さ。その、学校のネイビーのコート着てさ、しかもちゃんと着てればまだいいんだけど、前のほうを、こう、ひろげて、ずっと立ってるの」

 すそのところを前へと大きく引っ張り上げるふりをする。

 それだと、あんまりコートの役を果たさないと思うのだが。

 「まわりだれもいないで校庭に一人いるから、目立つんだよ。で、なんか、最初、いじめで外にいろとか言われたのかと思って、まあ、先生が気がついてさ、だれか見に行って、って言うから、わたしが出てって。何やってるの、ってきいたら、雪の結晶の観察、とか。雪って空のどこの高さでどんなできかたをして、どういう空気のところを通って来たか、顕微鏡とか使わなくても見ただけでわかるんだって、すごい熱心に語ってくれて。だから、コートの濃い色の上で雪を観察するんだ、とか言ってるんだ」

 「はあ」

 「それで、雪女、って言うんだけど」

 「はあ!」

 世のなかで言う「クモ女」や「雪女」とは、だいぶイメージが違うと思うんだけど。

 「まあ、三年生とかのときは、その子が台本書いて、わたしがナレーションして、天気予報とか動画撮って作ってたんだけどね」

と友梨咲は笑う。

 テレビのレポーターのまねが得意だった友梨咲。

 演劇のナレーション、そして放送部だった友梨咲。

 お天気お姉さんも似合ったに違いない。

 「自分で動画も撮ってたの?」

 初子はつねがきく。

 「うん」

 とてもあたりまえのように友梨咲が答える。

 「その子が台本書いて、その子のオリジナルの絵、まあ、正直言って、あんまり画力はないんだけど。それとか、あと、もちろん気象庁の天気図とか、フリー素材の絵とか、あと学校内で撮影した映像とか組み合わせて、わたしが編集して。週二回ぐらいかな。試験期間とかはお休みになるけど。学校内だけで見られるサイトで公開してた」

 中学校で動画の編集とかやってたら。

 それはたしかに、舞台芸術科のある学校に行くよな。

 「まあ、だいたいはずれるんだよね、予報」

と、さらに笑う。

 「はずれるんだ」

美和みなが言う。

 だったらダメじゃん。

 「いや、もちろん、だれが見ても晴れとかさ、だれが見ても雨とかは、それは当たるんだけど、天気予報を気にするときって、だいたいどっちかわからないときじゃない? それで、なんか、その子、理屈をつけて予報するんだけど、よくはずれる」

 「まあ、それは」

と初子が言う。

 「前線の位置が予報からちょっとずれただけではずれる、って話だよね」

 ……。

 「あと、暖気が寒気と入れ替わるか、暖気が寒気の上に乗ってしまうかで、地上の気温がだいぶ変わることもあるし」

 ……。

 なんで知ってるんですか?

 初子は。

 「うん。それで」

と友梨咲が話を続ける。

 「男子とかに、なんだ、当たらないじゃん、とか言われたら、わたしは「それはそうだよ、中学生だもん」って言って笑ってるんだけど、その子はすごく悔しがってさ。それで、こうなったら、気象予報士の資格取る、とか言い出して」

 「はあ?」

と、こんどは美和が声を出す。

 「だって、中学生だよ? 何年先の話?」

 そんな資格が取れるのは。

 「なんか、気象予報士試験って、年齢制限とか、ぜんぜんないらしいんだよね」

と友梨咲が笑って答える。

 「最年少記録は十一歳、とかなんだって」

 「そうなの?」

 そういう天才はいるのかも知れないけど。

 そこに交じるつもりなのか。

 そのクモ女。

 で、笑う。

 「ま、クモ女、気が強くて、うるさいかも知れないけど、優しい子だよ。そういう子が学藝からしらこうに行くから、よろしくね」

 「うん」

と、初子が、上機嫌というわけではないけど、声を立てる。

 「そういう子なら、仲よくできるかも、って思う」

 いや。

 「そういう子なら、仲よくできる」って、どういう発想?

 せめて「そういう子でも」だろう。

 やすけ合いしないほうがいいんじゃないかな、と美和は思うけど。

 何も言わないことにした。

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