第35話 レモン色の車の女の人

 レモン色の車のドアが開いて、下りてきたのは女の人だった。

 背はそんなに高くないし、たぶん、その背丈以上に小さく見えた。

 ぱっちりした目、明るい口紅を塗った口、ぴん、と頭の両側ではね返った髪の毛。

 痩せた身体。

 たぶん歳はだいぶ上だと思う。

 だって、車を運転してるんだから。

 でも、子どものような雰囲気の女の人だ。

 赤の、太い毛糸で編んだセーターの上に、白いジャケットを羽織り、とてもスリムなデニムパンツを穿いている。

 おしゃれっていうのか……。

 ……もしおしゃれなのだとすれば、そのおしゃれさが場違い。

 「だいじょうぶですか?」

 その女の人は、四人と一匹が集まっているところの横に来て、声をかけた。

 答えたのは初子はつね

 「ええ」

 あたりまえのように、答える。

 「このひとがどこかすりむいてなければ、というのと、その自転車が壊れてなければ」

 具体的に述べる。

 落ち着いてるなぁ。

 女の人は、聞くと、自転車が倒れているところまで行く。

 「よいしょ」

とか声を立てて、倒れている自転車を起こしてみる。

 自転車を起こしたとき、その華奢きゃしゃな女の人は自転車の右側だったので、ハンドルを右手で支えて自転車の左側に回り込む。

 器用だ。

 というか、動きにむだがない。

 左側から自転車を押す。

 自転車は坂の下を向いていたので、ぐるっと百八十度回して、こちら向きに向きを変える。

 そこで自転車に助走をつけて乗る。

 車を停めてあるところの向こうまで行き、またそこでUターンして、戻って来る。

 自転車を停めて

「ん」

と言い、自転車を下りた。

 「だいじょうぶみたい」

と、女の人はその自転車のハンドルを男の人の前に突き出した。

 「あ、ああ」

と男は言って、中途半端にぺこんと頭を下げ、ハンドルを受け取った。

 「あ、あ、ありがとうございます」

と男は、もういちど、ぺこん、と頭を下げる。

 「それで」

と、女の人は分厚い定期入れのようなものを取り出した。

 「わたし」

と示しているものについている紋章のようなものを見て、男の表情が変わる。

 がたがたがた、と震えている感じ。

 初子はわからないけど、友梨咲ゆりさも緊張したのがわかった。

 詳しいことはわからない。

 こういうシチュエーションは、ドラマでしか見たことがないから。

 でも、それは、警察の紋章、というものではないだろうか?

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