第30話 シュー君、突進する!(1)
シュー君がまっすぐ行こうとしたが、猫っぽい
「シュー君、こっちだよー」
と言われると、くるんと逆回りして初子のほうに来た。
しっぽをせわしなく振って。
さっそく、まあるい頭の上を、中腰になった初子に撫でられているうえに。
その撫でた手を
「ほうら」
と上に上げると、シュー君はそれに跳びつこうとする。それが三回か四回繰り返される。
そうやってシュー君が初子に遊んでもらっている下り口のところに、自転車が停めてあった。
たぶん「ママチャリ」という種類の自転車だと思う。
いまでも乗れそうには見えたけど、ところどころ塗装がはがれて
前籠がついているのだけど、それもはずれかけている上に、一部分が割れて壊れている。たぶん籠として役に立たない。
だれかがここに乗り捨てて行ったのだろう。
初子がシュー君の相手をするのが終わり、三人はその坂道を下りていく。
道はゆるく下りながら、方角としてはもと来たほうへと続いているので、さっきの道を上に見て逆戻りすることになる。
「ここ、もともとね」
と友梨咲が説明した。
「さっきの馬車鉄道の馬がいて、鉄道馬車の事務所だったところなんだって」
「じゃあ」
と初子がきく。
「そのお城みたいなのが事務所で、前にある平たい建物が
「厩」なんてことば、めったにきかないけど。
でも、馬小屋で、しかも小さくないから「小屋」ではないのだから、「うまや」でいいのだろう。
「うん」
と友梨咲が言う。
「まあ、この広さだと、十匹ぐらい馬がいたんだろうな、とは思うけど」
道はその建物の先まで続いていた。
その事務所と厩の前までは舗装してあった。舗装はだいぶ傷んで、道にはでこぼこができていたけど、いちおうはアスファルト舗装だった。
その先は土の道だ。「土の」というより、いつか降った雨がまだ乾いてないのか、まだ泥のままに見えた。そこにもしょぼしょぼと草が生え始めている。
初子がその建物の手前で立ち止まる。
建物と「厩」の前には木の柵があって、中には入れないようにしてあった。
でも、その柵も黒ずんで腐っているようでもあったし、柵の横棒がはずれてかんたんに中に入れるようになっているところもあった。
シュー君はもともとさっきの道ほど気が進まないようだったので、やっぱりすぐに立ち止まる。
「うーん」
と初子が考える。
「正面から写すと、なんかうそっぽくなっちゃうなぁ。なんか、平らなベニヤ板とかに絵を描いて、それを立てたみたいな」
まあ、言われてみればそうだけど。
「さっきみたいに、もっと日が強く照ってたら、まだこんな感じにはならなかったんだろうけど」
空はいまも青く見えているけれど、場所が違うからか、ほんとうに薄雲が増えたのか、太陽の光はさっきよりぼんやりとしか照らしていない感じがした。
「まあ、それだけおとぎの国って感じじゃない?」
と美和が言う。
「うーん」
と、もういちど初子は言って考える。
「向こうに行くと、もろに逆光になるからなぁ。まず、ここから撮ってみようか」
と、カメラのバッグを開こうとする。
バッグのファスナーが開いて、さっそく、シュー君が興味を引かれる。
しっぽを振りながら、バッグのほうに近づいてくる。
なぜしっぽを振る、と美和が思ったそのとき、シュー君の様子が変わった。
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