第4話 シュー君を手なずける

 「うわー。なんかすごい美人になって」

 「ありがとう」

 たしかに、上地かみち友梨咲ゆりさは、前からおませで、目立ってた子だ。

 テレビのレポーターのまねをするのが大好きで、口癖は「以上、現場からお伝えしましたぁ~☆」……。

 ……という、そんな子だった。

 その友梨咲が言う。

 「美和みなこそ、ほんと、大人っぽくなって」

 「あ、ありがとう」

 まあ。

 美人になって、と言ってもらえるとは、最初から思ってないけど。

 「もう、小学校卒業して以来だねえ」

と上地友梨咲が言うので、

「こんな近くに住んでるとはぜんぜん思わなかったよ」

と美和も答える。

 そうやって、小学校卒業以来の再会を、友梨咲と美和が喜んでいるというのに。

 「おわわわわわわわんっ! わんっ! わんっ! うーっ! ぐぅーうっ! わんわんわんわんわん、おわわわわわんっ!」

 友梨咲がリードを持っている、明るい茶色の柴犬っぽい犬は、ますます激しく、ますますかわいく吠え続ける。

 無視された!

 自分を無視して、人間の女の子二人で盛り上がっておる!

 しかも、そのうちの一人は、自分より後から来た、得体の知れない人間なのに!

 ここは存在を主張せねば!

 ……と、思ったのかな?

 「あ、この子ね、シュー君」

と、友梨咲は紹介する。

 「わわわわわんっ! わんっ! わんっ! おわわわわわんっ!」

 シュー君も激しく吠えて、激しく自己紹介する。

 しているらしい。

 美和は、そのシュー君の前でしゃがんだ。

 シュー君のまあるい頭へと手を伸ばす。

 もしそんなことをしたらまれるのなら、主人の友梨咲が止めるだろう。

 「わんっ?」

 シュー君は、おびえた。

 おびえるなよ。

 こっちはこんなにかわいい女の子なのに。

 それで、美和は、思い切って手を出して、シュー君の頭をでてやる。

 おとなしく撫でられてくれた。

 「あ」

と主人の友梨咲が言う。

 「のどの下のところ、こちょこちょこちょっとやってあげると喜ぶよ」

 「あ」

と、美和も友梨咲を見上げた。うん、とうなずくので、言われたとおり、シュー君ののどの下、毛足の長い毛がもふもふのところを、指を立てて撫でてあげる。

 「くぅーっ」

 たしかに、シュー君は目を細めて気もちよさそうにした。

 美和が手を放そうとすると、その手に鼻を寄せて来るので、もういちど撫でてやり、その鼻に美和の手のにおいをがせてやった。

 立ち上がる。

 シュー君はもう吠えない。

 美和が立ち上がると、シュー君の主人の友梨咲が美和にきく。

 「でも、美和、ここの近所に、だれか知り合い、いるの?」

 「ああ」

 正直に言っても、友梨咲は嫉妬とかしないだろう。

 「河辺こうべ初子はつねってね。こんど、しらこうでいっしょになるんだけど」

 白高というのは、白姫高校の略だけど。

 「えっ?」

 友梨咲は、固まってしまった。

 まさか。

 白姫高校は県内一偏差値が高い高校なのに、まさか美和がそんな高校に入れるなんて、という驚き?

 そうは言っても競争率一・五だよ?

 三人に二人は合格するんだから。

 それとも、やっぱり、嫉妬?

 自分じゃない子に、ここまで会いに来たなんて、という……。

 しかし。

 絶句していた友梨咲は、言った。

 「河辺初子、って」

 おそるおそる、という感じで、言う。

 「そこの猫屋敷の?」

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