第17話 初子のこれまで(1)

 学藝がくげい中学校の入り口のコンクリートの坂からまたもとの坂道に戻り、その坂を上がっていく。

 どうやら、美和みな初子はつね友梨咲ゆりさのなかで、美和がいちばんシュー君に好かれていないようだなのだが。

 なぜか、リードを握っているのは美和。

 最初はふて寝だったのかも知れないけど、寝て休んだシュー君は元気で、前に出て女の子たちを引っぱる。

 引っぱられるので、三人とも早足だ。これでもシュー君の足の速さは美和が抑えているつもり。

 中学校を通り過ぎてから道は平坦になり、道の両側には家が並ぶようになる。

 山守やまもり町という地区だ。

 美和の家からすぐ近くだけど、美和は小学校のとき以来ここには来ていないと思う。

 「で」

 シュー君に引っぱられるペースに三人とも慣れたところで、美和が初子にきく。

 「初子って、着てるものがなんでそんなに革っぽいの?」

 白い革のジャケットに、スカートも白い革の短いスカートだ。

 お嬢様っぽい初子がこんな服を持っているとは思わなかった。

 ちなみに美和は革の服なんか持っていない。

 「ああ、これ?」

 初子は、いまは、バッグを右側に持ち、美和の右側を歩いている。

 そのジャケットのおかげかどうか。

 背が高いこともあって、いまの初子は「頼りになる女の子」という感じだ。

 「動物の革のものを着てると、もし猫のにおいがついててもまぎれるかな、と思って」

 それ?

 シャワーを浴びても、やっぱり猫のにおいが気になる?

 「シュー君を気にして?」

と友梨咲も言う。

 「気にして、っていうか、まあ、ひさしぶりのシュー君だからね」

 ひさしぶりのシュー君……。

 「ま、人間中心で言えば、友梨咲と会うのもひさしぶりだし」

 「人間中心」って。

 まあ。

 友梨咲も初子も人間だから、それでいいのか。

 シュー君は犬だから。

 そのシュー君に引っぱられている美和がきく。

 「近所なのに?」

 それに、初子の両親がいないあいだ、友梨咲のお母さんが初子のことを気にしてくれているのではなかったか?

 「まあ、わたしの登校時間には、シュー君は散歩中か、散歩から帰ってきてなかにいるか、だったから」

と初子が答えると、

「下校時間はわたしのほうが遅いこともあったかな? だから、夏休みとか冬休みとか、長い休みのときしか会わなかったね、シュー君と初子」

と友梨咲も言って笑う。

 「つまり、通ってた学校が違うから?」

と美和がきくと、友梨咲が

「うん」

と中途半端にうなずき、

「そう言えば、初子って、なんかしんよど駅の向こうのほうまで通ってたよね。俊徳しゅんとくだっけ?」

と初子にきいた。

 「うん」

と初子が答える。

 俊徳、って学校の名前は聞いたことはあるような、だけど。

 初子が言う。

 「まずここから新澱まで直接行くバスがなくて、新澱からも、バスがあることはあるんだけど大回りする路線だから、けっきょく歩いても大差なくて。。川路かわじ駅まで行ったらスクールバスあったんだけど、それも遠回り過ぎるし」

 川路駅までは、美和の家がやっている清華せいか食堂の前のバス停から、バスで順調に行って十分ぐらいはかかる。

 途中の信号待ち運が悪いと十五分かかることもある。

 「で、俊徳まで歩いて行ってたら、小学校のころとか五十分とかかかったかな?」

 初子の通学苦労話。

 五十分なんだ。

 小学生で、よくそんなに歩いたな。

 「まあ、いまは三十分ちょっとで行けるけどね。自転車だともうちょっと速いけど、よどのところの自動車道路が交通量が多くて歩道が狭くて危ないのと、帰りの最後にここの坂になっていやだから、けっきょく歩いてた」

 なるほど。

 「わたしは登校時間五分だったから、生活時間、ずれてたよね」

と友梨咲が笑うと、初子も笑った。

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