第18話 初子のこれまで(2)
ところで、
だから、きいてみる。
「で、初子、小学校もそこ?」
「うん」
と初子は高い澄んだ声で答える。
「まあ、
「はあ」
「
小学校中学校一貫という学校があることはなんとなく知っていたけど。
それと、いま、疑問が一つ解決した。
もし初子が公立小学校に通っていたとしたら、
でも、龍田山小学校に初子はいなかった。
あの道のいちばん奥に初子の家があり、途中に友梨咲の家があるのだから、その道の途中で小学校区が分かれるということはないと思う。
中学校にもいなかったから、小学校も中学校も公立以外だろうな、とは思っていたのだが。
三人が話をしながら歩いているあいだも、シュー君は後ろをふり返らずにとことことこと道を進んでいく。
そのシュー君に引っぱられるようにしながら、それでもあんまり速く行かないように引き戻しながら。
美和がきく。
「でも、小学校、そんな遠いところに行くって。一年生のときとか、もっとたいへんだっただろ?」
もしかして、親が送り迎えとかしてたのだろうか?
「ああ、いや」
と初子は答える。
「一年生のころは学校の近くに住んでたからね」
「いまのお屋敷に越してきたのって、小学校四年生のころだっけ?」
と友梨咲もきく。
「五年生の途中だよね」
と初子は答えた。
「家、造り始めたのは、たぶんわたしの三年生のころだったと思うけど」
「はあ」
つまり、豪邸だから、造るのに時間がかかった、と。
どんな大きい家に住んでいるのだろう、初子は。
「俊徳って、おじいちゃんが経営してた、っていうか、一人で経営してたわけじゃないけど、なんか理念に共感したとか言って経営に入ってた学校だからね、幼稚園のころから何度か行ったことがあって。まあ、小学校に入るときに、「俊徳にする? どうする?」とはきかれたけど、とくに拒否する理由もなかったから」
はあ。
つまり、お父さんは戦場で写真を撮ってる写真家で、おじいさんは学校の経営者。
しかも「理念に共感して」経営者になった経営者。
なんか、すごい。
町の食堂をやっている家の娘の美和からすると。
「だから、おじいちゃんの家は
澱小学校というのはその新澱駅の向こうにある公立の小学校だ。
「で、おじいちゃんが死んで、そのあと、おばあちゃんも死んで、それで、市で図書館と美術館をいっしょにして移転する、ってあったでしょ?」
「うん」
その移転のせいで、小学校のころまでバス一本、自転車でもすぐに行けていた図書館までバスを乗り継いでいかなければならなくなって、美和は図書館には行かなくなった。
「その図書館のために土地を手放して、それで、ここに引っ越したんだけど」
そういうことか。
家を出るときには空は白く薄曇りのようだったけど、いまは青く晴れてきている。
歩いている道は四つ辻に出る。
「わんっ!」
シュー君がふり返って、「どっちへ行く?」ときいているようなのだが。
だれも返事をしないうちに、さっさと右に曲がってしまったから、もともとそっちへ行くつもりだったのだろう。
それに、飼い主の友梨咲が何も言わないので、そちらの道でいいのだろう。
「初子のおじいさんって、書道家だったっけ?」
と、角を曲がってから、友梨咲が初子にきく。
「まあ、なんでもやったひとだけどね」
と、初子は小さく笑って言った。
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