第28話 廃墟(2)

 いや。

 ただ一軒だけ、庭は雑草だらけだけど、そのビニールハウスのような車庫があって、そこに車を置いている家があった。

 車はレモン色のぴかぴかの小型車で、捨てられた車には見えない。

 家にだれか住んでいるかはわからない。たぶん住んではいないのだろうけど、少なくともだれかが車でここまで来てはいるらしい。

 この先のほうにまだ人の住んでいる家があるのかも知れないが、少なくともここまでは、この牧場のフェンス沿いの家並みは、その車のある家だけをたった一軒の例外として、人が住まなくなってしまったようだ。

 「こういうのってさ」

と、少し後ろを歩いていた初子はつね美和みなに追いついてきて、小さい声で言った。

 「写真に撮っておいたほうがいいと思う?」

 美和は、すぐには答えられない。

 相手が初子でなければ、こんなの撮らなくていいよ、と答えるだろう。

 写真って、もっときれいなもの、記念になるものを撮るものだと思うから。

 でも。

 この初子のお父さんは、戦場で、廃墟になった建物や、戦争の結果、だれも住まなくなった、住めなくなった街を、いっぱい写真に撮っているだろう。

 だったら、初子自身も、そういう写真を撮りたい。

 いや、撮るべきだ。

 初子はそう思っているのかも知れない。

 正直に答える。

 「こういうところって、戦場じゃないけどさ」

 美和がことばを切ると、初子が

「うん」

と言う。

 答えの方向性が間違っているわけではなさそうだ。

 「人が住んでて、いなくなって、って、そういう場所を撮りたい、ってことか?」

 「撮りたい、っていうか、ね……」

 初子は迷っているようだ。

 「いや、それだったら」

と、その二人の話を聞いていた友梨咲ゆりさが言う。

 「そこのそれが、いちばんの廃墟だよ」

と友梨咲は、その家の列が並んでいるところの反対側、つまり右側に右手を上げた。

 道の右側は山の斜面で、そこは牧場跡よりも本格的な荒れ地だった。

 まばらに木が生えて、その木も、葉を落としていたり、あまりパッとしない色の葉をつけていたり、もう枯れていたりだ。下は、枯れ草と、春になって生えてきた草が混じっている。その小さい草には、青やピンクの小さい花が咲いているものもあった。

 その荒れ地のなかに、童話の国のお城みたいな三階建てのビルが見えた。

 もともとは青や水色、黄色、ピンクに塗ってあったらしい。パステルカラーというのだろう。

 でも、その色は剥げ落ち、窓ガラスもところどころ割れていた。色が落ちただけではなく、壁そのものが崩れて、びついた鉄筋が見えているところもある。

 そのビルの手前には横長の平らな建物が左右にひと棟ずつある。

 屋根の上には屋根瓦のような飾りが描いてあるけど、プラスチックか軽いコンクリートか、そんな素材の屋根らしい。

 友梨咲が「いちばんの廃墟」というのは、そこのことだろう。

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