第51話 馬と人間(10)…と、シュー君!

 西にし香純かすみ巡査長は顔を上げて言う。

 「わたしはまだそのころ中学生だったからわかってなかったけど、その友の会の会員で、ホープ号が突然いなくなったことに気づいて、いろいろ調べた人もいたみたいです。だから、その転落事故を起こしたのがホープ号じゃないか、ってところまではわかったんですが」

 西香純巡査長は、そこでちょっとことばを切ってから

「まあ、会社のガードが固くて、それ以上はわかりませんでした」

 少し黙ってから、つけ加える。

 「でも、友の会の会員はホープ号のことは覚えてて、でも、会社は、そんな馬はもともといない、とか言ってたから、何かあったな、ということはわかったんですけど。でも、友の会ってその会社が運営してましたし、会員も会社を信頼してましたからね。いまなら、SNSに「ホープ号についての情報求む!」って書けばいろんな情報が集まって、会社も隠しきれなかったでしょうけど、まだ、そんな時代じゃなかったから」

 「じゃあ」

右馬うますけさんが口をとがらせてから、巡査長にきく。

 「その、グリーンちゃんとクロちゃんがどうなったかも、その、友の会で?」

 「友の会が解散になって、そのあと、そういうのを調べて同人誌にした人がいるんですよ」

 同人誌……。

 そうすると、年末に東京のほうまで行って売ったりしたのかな?

 「その内容をネットで公開してたこともあるんですが、その、ライクリッチコーポレートから、無断でうちの写真を公開した、ってサーバー貸してた会社を通じて苦情があって、もし掲載を続けたら訴えるとか言われて、それでいまは非公開」

 西香純巡査長が、ふふん、と小さく鼻を鳴らす。

 「まあ、それで、何かやったんだな、という見当はつきました」

 「それで」

と、シュー君の頭を、小さく円を描くように指で撫でながら、初子はつねが顔を上げる。

 「捜査の対象に?」

 「いやあ。まあ、わたしは、さっき言ったように生活安全課ですしぃ」

 西香純巡査長が照れ笑いする。

 ほんとうの照れ笑いか、そう装っているだけかはわからない。

 たぶん、装っているのだろうけど。

 「青少年関係とかぁ、あと防犯とかの関係ならまだしも、なんですけどぉ、経済犯罪とかになるともうぜんぜんタッチできない、ってところだからっ」

 そんなにかわいらしく言わなくてもいいと思うのだが。

 「つまり」

と初子が言う。

 「何か、その、ゆめ牧場の経営をやってた会社が、経済犯罪的なことをやってるんじゃないか、と、香純さんは考えてる、ってことですか?」

 「いや、まあ」

と西香純巡査長はあいまいに笑った。

 「ノーコメント、だね」

 続いて、あいまいではなく、笑う。

 「そんなことを話してしまったら、犬ちゃんと遊ばせてもらうかわりに警察の内部情報を漏らした、とか言われてしまうから」

 言いかたがかわいらしい言いかたから普通に戻った。

 「あ、この子、犬ちゃんっていうか、シュー君です」

と初子が言うと。

 名まえを呼ばれたシュー君がいきなり体を起こす。

 「わんっ」

 体を起こしても頭の上は初子に撫でられているシュー君!

 「あー、よしよし。じゃあ、おまわりさんにごあいさつしようね。それでときどき警察の秘密情報教えてもらえるからねー。よかったねー、シュー君」

と初子がシュー君の体に手を添えて、西香純巡査長のほうに向ける。

 「いや、教えませんけど」

と無愛想に言いながら、シュー君の鼻のところから顎の下を西香純巡査長が撫でる。

 同時に、頭の後ろからマントのところまでを初子に撫でられる。

 二人がかりで撫でられてしまうシュー君!

 ほんと。

 初子には秘密情報は教えないにしても。

 シュー君。

 このまま、警察にいろいろ秘密情報を教えてもらって、警察の役に立つ犬になるのかな?

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