第52話 女子トーク(1)

 矢畑やはた右馬うますけさんが娘たちより先に帰った。

 目立つといけないというので、家の前まで出て見送ったのは西にし香純かすみ巡査長だけだった。

 戻って来て、西香純巡査長が

「あの人には、いまからでも遅くないから結婚すれば、って言っといた」

とさばさばと言う。

 はい?

 「結婚すれば、って?」

友梨咲ゆりさが言うと、西香純巡査長は

「だって、あれ、ほっとくと、男性独居老人になっちゃうよ」

 「あれ」って……。

 「その平和町の家で孤独死とかされると、警察の仕事増えて困るんだけど」

 「……そこですか?」

 シュー君は別にして、人間は女の子と女の人だけになったので、遠慮せずに美和みながきくと

「そこです」

と、西香純巡査長がきっぱりと答える。

 シュー君を体の横に抱きながら、初子はつねが続けてきいた。

 「じゃあ、もし、右馬之祐さんが、香純さん、好きです、結婚してください、って言って花束持って来たらどうします?」

 「ばかも休み休み言って、って言って追い返す」

 はい?

 で、西香純巡査長は、もと座っていたところに、ぺたっ、と腰を下ろす。

 あ。

 女子だけになったら、座りかたのぞんざいさがさっきの倍以上になった。

 まあ、そういうものか。

 そのぞんざいに座る西香純巡査長にくーっと首を伸ばすシュー君!

 そのシュー君の背中の横を撫でながら、初子が

「ところで、さっきの話、ほんとうですか?」

ときく。

 「さっきの話、って?」

 西香純巡査長が、つんっ、と、ちょっとだけ唇をとがらせて答える。

 なんか、巡査長。

 さりげなく、「自分は色っぽい女」とアピールしてる?

 初子の補足説明。

 「だから、香純さんが馬車鉄道友の会に入ってたとか、グリーンちゃんとクロちゃんが生き残ったとか」

 「あ、そうだ」

 西香純巡査長は初子の質問に答えずに、舌打ちしそうな感じで言った。

 「クロ号、まだ生きてるから、そのこと言っとけばよかった」

 「ということは、ほんとなんですね?」

 初子が追及する。

 まあ。

 戦場ジャーナリストの娘だからな。

 「うたぐり深いわねぇ」

 かわいくプンプンしながら、西香純巡査長が言い返す。

 「わたしが嘘ついて、何の得があるっていうの?」

 「だって、グリーン号とクロ号が肉の値段で売られたなんて言ったら、右馬之祐さん、もっと傷つくじゃないですか。どうせ、あのひとに、ほんとうのことを、たとえばネットとか駆使して調べよう、なんて気力があるわけないですし。じゃあ、生きてる、って言って安心させたほうがいいじゃないですか」

 「なんか」

と西香純巡査長が言う。

 「見てるところがすごいわ」

 「すごい」という言いかたで何を言いたいのか、もうひとつ、わからないけど。

 で、西香純巡査長は、マグカップに入っていて、もう冷えてしまった花のお茶を飲んだ。

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