第19話 王子様の休み時間【玲緒視点】
やっぱり葉山くんには驚かされるよ。
あれだけ言い寄られていて嫌な顔をしていたっていうのに、まさかぼくのためにお弁当をつくってきてくれるなんてね。
「まあ、それくらいでなくちゃ、ぼくが興味を持つこともないからね」
休み時間になり、ぼくは無目的に廊下を歩いていた。
「それにしても、お人好しがすぎるから、もっともっとぼくがそばについていないといけないよね」
できるだけ、人通りの少ない廊下を選んで歩いていたつもりなんだけど、あいにくどこへ行こうと校舎の中。誰かしら女子生徒に行き当たってしまう。
「あっ、鷹塚さま!」
「『王子様』!」
いくら遠くからだろうと、ぼくを見つけた途端に駆け寄ってきてくれるぼくのファンらしき女子たち。
「はいはい、どうしたんだい?」
どんなに体調が悪くたって、そしてあまり興味のない女の子だったとしても、ぼくは微笑みかけるようにしている。
別に、『王子様』という称号を気に入っているわけじゃない。
でも、ぼくの周りに集まる女の子の目的は、王子様扱いされてもサマになるぼくだから。
他愛もない会話だろうと、彼女たちは喜んでくれる。
少し前までは、そんな彼女たちの中に好みの女の子がいたら、声を掛けて放課後も一緒に過ごすようにしていたけれど。
最近は、そういう気持ちも湧かない。
綺麗な子だろうと、可愛い子だろうと、話してみて楽しそうな子だろうと、どんな女の子から話しかけられたって、頭に葉山くんのことが浮かんでしまっているからだ。
今だって、気もそぞろで目の前の女の子と話しているしね。
授業を告げるチャイムが鳴った。
ぼくのサービスタイムもこれで終わり。
「――それじゃあね。少しだけど、話せて楽しかったよ」
女の子たちに背中を向けて手を振ると、一体どこから声を出しているんだろうってくらい大きな黄色い歓声が飛んでくる。
まあ、満足してくれたみたいで良かったよ。
解放されたぼくは、教室へと戻る。
これで思う存分、葉山くんのことを考える時間ができたというわけ。
「今日は放課後、葉山くんはぼくに付き合ってくれるかな?」
本人に聞いたところでは、特売セールに駆け込んでばかりいるわけではなくて、海未ちゃんの保育園へ迎えに行く大事な仕事もあるみたいだ。
「葉山くん相手だと、どこかへ出かけるのは難しそうだ……それなら、おうちデートにもつれこんでしまった方がいいかな?」
葉山くんをぼくのモノにするためにも、攻勢を弱めるわけにはいかない。
「この調子じゃ、授業中は作戦会議だね」
これで成績が下がろうものなら、責任は全部葉山くんに被ってもらうことにしよう。
それを理由に勉強会だとか言って、家に押しかけるのもいいかもしれない。
「本当に退屈しないよ。キミは」
ぼくは自分の教室の扉に手を掛け、教師が来る直前の教室に滑り込むのだった。
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