第55話 王子様の焦りと戸惑い【玲緒視点】
別に、葉山くんが岩渕と一緒だったことはどうでもいいんだよ。
あんなの、本当に別にどうだっていい。
葉山くんの本命が岩渕彩珠なことなんて、とうに知っていることだから。
だから、誘われたらホイホイついて行くなんてわかっていたことだ。
デートなんかじゃないってことだってわかっている。
あの葉山くんに、そんなことができるものか。
ぼくに良いようにやられっぱなしなんだから。誘う勇気なんてないはずさ。
そんなわかりきっていることなのに。
じゃあどうしてぼくは、あんな逃げるみたいなことをしてしまったんだ?
あんなことしたら、まるで岩渕と一緒にいる葉山くんを前にしてショックを受けるとかいう、純真な女の子みたいじゃないか……。
だからこの苛立ちは、自分自身に対してのものだ。
もっと堂々としていればよかったのに。
ぼくはいつだって、みんながそう呼ぶように『王子様』として堂々としていたはずなのに。
でも、意外としぶとくて、ぼくのモノになろうとしない葉山くんに対して、思った通りに行っていないことに焦っているのも確か。
本当なら、今頃葉山くんはぼくナシじゃ生きられない体になっているはず。
今まで、こんなにも手こずったことはないよ。
「ぼくの魅了の力が衰えているのか……?」
余計なことまで考える始末。
最近は葉山くん関係のことで、どうにもならないことをぐるぐる考えていることが多いから、気分転換で外に出てきたのに、結局悪化することになった。
このまま何の刺激もない家に帰ったらますます悪い方にばかり考え込んでしまいそうだから、夜の街を無目的に歩いていた。
「くちゅん」
くしゃみが出た。
これから暑くなっていく時期とはいえ、まだまだ夜は肌寒い。
無目的にぐるぐる街を歩き回った挙げ句、風邪を引くなんて情けないことにならないといいけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます