第46話 策略家な鷹塚さん
そうしてプールを楽しんでいると。
「じゃ、あにき! これかられおと二人で遊んでこいよ! 海未のことなら、あたしが面倒みててやるからさ!」
オレと鷹塚さんの背中をぐいぐい押す美月。
「二人でって……」
「ほらほら、キミの大事な妹が気を利かせてくれているんだ。お言葉に甘えようじゃないか」
オレの腕に抱きついて、逃げられないようにロックしてくる鷹塚さん。
これは、鷹塚さんと美月の間で何らかの密約が交わされていたに違いない。
「向こうにウォータースライダーがあるんだ。ここのプールの名物さ。体験しないと損だよ。一緒に行こう」
鷹塚さんのそばでニヤニヤしている美月が、オレに耳を貸せと要求してくる。
「れおにはあたしのねーちゃんになってほしいんだから。頑張れよなー」
そ、それって結婚を前提としたお付き合いをさせようってこと?
ちらりと鷹塚さんに視線を向けると、意味ありげに微笑む姿が見えた。
この顔。間違いなく、鷹塚さんの入れ知恵……。
「ほらほら、せっかく気を利かせてやってんだからよー」
文字通り背中を押してくる美月。
妹を取り込まれてしまったオレは、仕方なく一緒にウォータースライダーへ向かうことになる。
名物なだけあって、結構な人数が並んでいたんだけど、美月を利用する鷹塚さんに抗議したり、とはいえ面倒を見てくれたことは助かったので感謝の言葉を口にしたり忙しくしていると、オレたちの番が目前に迫ってきていた。
「ウォータースライダーあるあるなんだけど」
ステップに足をかけた鷹塚さんが口を開く。
「スロープは仰向けで滑るだろ? その時、勢いが強くて水着が脱げてしまうってことが頻発するらしいね」
「頻発はしないだろうけど……」
フィクションではあるんだろうけど、実際にこの目で見たことはない。
「ぼくはね、ぼくの裸体はキミ以外に見せたくない気分なんだ」
「ガッツリ水着姿なのに?」
むしろ、ラッシュガードを着ているオレの方が裸体を隠してる率は高いよ?
「確かにビキニだけどね。でもほら、ここを見てみなよ」
腰を指差す鷹塚さん。
腰の部分は、ヒモ状になっていた。
そういうデザインなだけなのかもしれないけど、引っ張ったらほどけそうなくらいの危うさを感じる……。
「ぼくを守ると思ってさ。スロープを滑るときは、キミを抱きしめさせてくれよ」
「は?」
「キミで水流をガードすれば、ぼくの水着は無傷で済むだろ?」
いや、待ってよ。
後ろから抱きしめられながら滑るってことだよね?
それ、恥ずかしいよ……。
だってガチの仲良しカップルみたいじゃないか……。
でも、鷹塚さんは美月に泳ぎを教えてくれたし、妹たちに休日の楽しみを提供してくれた。
「……わかったよ。でも、あんまり変なことしないでね?」
「変なことって?」
「変なことは、変なことだよ! もう! わかってるでしょ?」
「なんだい、わからないから教えてくれよ」
ニヤニヤしてオレの腕から手を離そうとしない鷹塚さんを振り払おうとしている間に、オレたちの番が来てしまった。
「ほら、キミが前に座ってくれよ」
傍らの係員さんとか、後ろで待っている他のお客さんの迷惑になりたくなくて、仕方なくオレは鷹塚さんの言う通りにする。
「わっ……」
「キミ、相変わらず背中がうすっぺらいね」
鷹塚さんからぎゅっと抱きしめられてしまう。
まるで、鷹塚さんに体が取り込まれてしまったような気分だ。
「ぼくたち、付き合いたてのカップルなんです」
大嘘を傍らのスタッフさんに伝える鷹塚さん。そんなことわざわざ言わなくていいし、そもそも大嘘だ……。
「葉山くん、一緒に初めての共同作業、しよ?」
「語弊を招くようなこと言わないでいくれるぅ!?」
「じゃ、滑ろうか。あともつっかえていることだし、このまま押し問答をしていたら迷惑だよ」
まるでオレが悪いような言い草……。
そしてスロープを滑り落ちていくオレたち。
背後からは、鷹塚さんのあまりに柔らかすぎる感触。前方からは水流の圧を感じて、ハードとソフトの板挟みという不思議な感覚に陥っちゃった。
スロープを抜け、ほんの少しの時間滑空するような感覚を味わい、オレたちは着水して、大きな水しぶきが上げることになる。
「け、結構迫力あったね」
端から見ているだけではわからないスピード感は、クセになっちゃいそうだ。
「鷹塚さん、大丈夫?」
「……いや、マズいことになったみたいだ」
水面から顔だけ出す鷹塚さん。
「ビキニのブラがどっかに飛んだ」
「ええっ!?」
オレは慌てて周囲をきょろきょろして、さっきまで鷹塚さんがまとっていた白いブラトップの姿を探す。
「この辺にあるはずだから、一緒に探してくれ」
「わ、わかった」
「その間、キミの手ブラで胸を隠してくれ」
「わかった! ……いや、わかってないから!」
つられて鷹塚さんの胸元に向けようとしてた手を慌てて天に突き上げる。
「なんだ。触ってくれるかと思ったのに。これじゃつまらないね」
ざばんと上半身を水面から上げる鷹塚さん。
その胸元は、ちゃんと白いブラトップで守られていた。
「流されてないじゃない……」
「安心しただろ? ブラを流された美人はどこにもいなかったのさ」
「もう鷹塚さんのウソは真に受けないからね!」
「まあ、そう言わずに。いや、待て。キミの方こそ、胸がちら見せ状態になっているよ?」
「あっ、本当だ!」
スロープを滑っているときに、水の勢いが強すぎるせいでファスナーが下りちゃったのかな?
「楽しかったけど、水の流れは気をつけないといけないかもだね」
「いや、まったく」
プール際のはしごに手を掛け、プールサイドへ向かう鷹塚さん。
水で濡れてぬらぬらと光るふっくらとしたおしりが見えて、オレは慌てて視線をそらす。
「まあ、でもいいこともあったよ」
「なにが?」
「キミの乳首を見れた。綺麗なピンク色だね。ごちそうさまでした」
口元に手を当て、小声で口にする鷹塚さんは、明らかに楽しんでいた。
気をつけないといけないのは、ウォータースライダーの水の勢いじゃない。
鷹塚さんという痴女だ……。
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