第14話 家事担当の大事な仕事
スーパー『キンジョウ』は、オレの家の近くにある。
二十四時間営業だから、どんなときでも利用しやすくて助かるという、我が家の味方だ。
どうせまた何かオレを困らせてくることするんだろうなぁ、なんて警戒していたのだが、カートを押すオレの隣を歩く鷹塚さんからは今のところ妙な動きをする様子はない。
「キミ、いつもここに来るの?」
「そうだよ。ここが一番気軽に来れて、安いから」
「じゃあ、キミの顔を見たくなったときは、ここで張ってようかな」
「怖いなぁ。そんなストーカーみたいなことやめてよ」
「だってぼくたちは、まだ連絡先を交換していないからね。キミが頑ななせいで」
校舎裏で昼食を一緒にするようになってから、ていうかラインやってる? やってるよね、ぼくともやろうよ! としつこくせがまれたんだけど、一度教えたら鬼のようにメッセージが来そうだったから、プライベートを侵食されるのが怖くて教えずにいた。
「鷹塚さんがもう少し強引じゃなければ、教えなくもないんだけど」
「やだなぁ。ぼくらはもうそういう仲なのに。ラインすら教えてくれないなんて、キミは本当に秘密主義だね。ミステリアスを魅力と考えてしまうタイプかな?」
「オレは鷹塚さんとそういう仲でもないし恋人になった覚えもないよ……」
「そうだったかな? まあ、今か後かの些細な違いだから、気にしたこともなかったよ」
「もっと気にして」
ため息をつきそうになるのを抑えながら、オレはお目当ての品物をカートの中に入れていく。
オレは事前に何を買うか決めておくタイプで、それ以外のものは買わないで無駄遣いを避けるように心がけているのに、鷹塚さんは突然どこかへ消えたと思ったら持ってきた商品を勝手にカートの中に放り込むというちっちゃい子どもみたいなことをしてくる。
「葉山くん。これを買っておくといいよ」
「うちはシリアル派じゃないから。返してきて」
「じゃあ、これはどうだろう?」
「そのカロリーメイトは鷹塚さんが食べたいだけでしょ」
「それならこれはどうかな?」
「はいはい。必要ないから返してきて――」
それを手に取ったとき、オレはぎょっとしてしまった。
妙にニヤニヤしてるから、変だなと思ったら。
鷹塚さんがカートに突っ込んできたのは避妊具だった。
「な、なんでこんなものを!? ていうかどこから!?」
「そこの薬局コーナーに普通に置いてあったよ? 恋人同士なら持っていた方が安全だよね。ほら、ぼくの体を気遣うと思って」
「いらないよ~」
「そっか。キミはナマでしたい派なんだね。まあ、キミがそうしたいなら、ぼくもやぶさかではないよ」
やたらとテンションが高い様子で、オレの腕に抱きついてくる鷹塚さん。
「ぼくは、キミには気持ちよくなってほしいからさ。キミのしたいようにさせてあげる」
「生々しいよ!?」
つい叫んでしまい、周囲の買い物客から白い目で見られてしまう。
顔が熱い。今鏡を覗き込んだら、真っ赤な顔をしていそうだ。
「もう! 買い物の邪魔するなら帰ってよー」
「ごめんごめん。キミとショッピングできるのが嬉しくて。ついついテンションが上がってしまったんだよね」
別にテンションが上がるなら上がるでいいけどさー、もっと迷惑掛からないようにしてくれないかなぁ。
「ほら、返してきて!」
「ちっ、しょうがないなぁ。まあ、真っ赤になっちゃうキミを見れたらから良しとするよ」
どうやらいたずら目的だったようで、特に抵抗することなく避妊具を返しに向かう鷹塚さんだった。
「えっと……あとは調味料を買い足しておかないと……」
スマホに書き残しておいたメモをちらちら眺めながらカートを進めていくオレ。
「あっ、あった……でも」
オレの目当てのソースは、棚の一番高いところに置いてあった。
「なんでー? いつもは下段の取りやすいところにあるのに……」
店内の商品配置がリニューアルされて、置く場所が変わっちゃったのかも。
こういうとき、小柄男子は不便だよ……。
仕方なくオレは背伸びをして、腕を伸ばそうとするのだが。
「なに。あのソースが欲しいのかい? 無理することはないさ。ちょっと待っててくれよ」
オレの横で腕を伸ばす鷹塚さんが、軽々とソースを手に取る。
右腕を伸ばしている間、パーカー越しだろうと盛り上がりがわかる胸元を目にしてしまい、目を逸らそうとしたら何故かそれが迫ってきた。
「うわっ」
パーカー越しとはいえ、おっぱいだとわかる感触を顔面に押し付けられてしまう。
「ああ、ごめんね。でも悪くない感触だろ?」
「え、もしかしてわざと?」
「まあまあ。どっちでもいいじゃないか。はい、これでいいんだろ?」
「ありがと……」
我が家でよく使う調味料を受け取ったオレは、なんとなくバツが悪い気持ちでカートの中へと入れる。
おっぱい押し付け行為はちょっとアレだけど、オレが届かないと思って親切で代わりに取ってくれたんだよな。
「オレ、鷹塚さんがいい人なのか悪い人なのか、いまだにわからないよ」
「キミは面白いことを言うね。ぼくに悪い人要素なんてある?」
「……わざと言ってる?」
「本気さ。ここにいるのは、純粋にキミに恋する綺麗な女の子だからね。そんな子が悪い人なわけないじゃないか」
本気か冗談なのか、ちっともわからないよ……。
オレは首を傾げながら、カートを押してレジへと向かった。
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