第13話 鷹塚さんの行きたいところ

 憂鬱な気持ちを抱えながら、正門を抜けた。


「じゃあ、ぼくも一緒に行くからさ、案内してよ」


 ご機嫌な鷹塚さんは、軽快な足取りでくるりとこちらに体を向ける。


「案内ったって。鷹塚さんが行き先決めるんでしょ?」

「何言ってるのさ。決めるのはぼくじゃなくてキミだよ」

「えー、どういうこと? オレに付いてきて欲しいところがあるから、嫌がられてまで無理やり誘ったんでしょ?」

「キミは誤解してるね」


 ニヤニヤした笑みを浮かべながら、まるで親しい男友達にするみたいに肩を組んでくる鷹塚さん。身長差が15センチはあるせいか、鷹塚さんは少し腰を落とすことになり、そのせいで胸元がオレの方に接近してしまう。


「キミの用事に付き合う。それがぼくの用事さ」

「……えっと、それって、オレがタイムセール目的で近所のスーパーに寄るから、それに鷹塚さんもくっついてくるってこと?」

「えっ、なんだい。スーパーに行くつもりだったのか」


 少し驚いたような顔でオレを見つめてくる。


「そうだよ。オレは一家の家事担当だから。食材の買い出しをしないといけないんだ」

「なるほどね。キミが家庭的な理由がわかったよ」

「うちは両親が忙しいから。オレが妹たちの面倒をみないといけないんだよ」


 鷹塚さんにはできるだけ家庭の事情を明かしたくなかったけれど、この際しょうがない。家族のために放課後の時間を使うのだとわかってもらわないといけないのだから。


「だから、鷹塚さんの誘いに乗るわけにはいかないの。オレにはやらないといけないことがあるんだから」


 そんなの関係ないから自分に付き合え、と言い出さないか不安だったんだけど、鷹塚さんの返事は驚くべきものだった。


「それなら、ぼくもキミの買い出しに付き合おうかな」

「えっ、わざわざ?」

「言っただろ? ぼくは好きな人の色々な面を知りたいって。家族のために買い出しをするキミの姿だってそうさ」


 鷹塚さんもたいがい変わってるなぁ。

 でも、どこかへ連れ回されるよりはずっとマシかも。

 まあ、途中で何か変なことを言い出しそうだから、気を抜いたらいけないことに変わりはないけれど。

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