第12話 鷹塚さんの強引なお誘い
放課後。
オレは昇降口にいた。
今日はスーパーのタイムセールがある。
この前は鷹塚さんの告白騒動で邪魔されちゃったけど、今度こそ満足の行く特売日ライフを送ってやる!
靴箱の前で気合の握り拳をし、特売に挑む決意を固めていると。
「や。今帰り?」
「わっ!」
オレの背後からぬっと現れたのは、
「それなら一緒に帰ろうよ」
いきなり後ろから抱きしめてくるものだから、ついつい慌ててしまう。
だって、普段鷹塚さんがパーカーで隠している向こう側には、大きな胸があって、抱きしめられるとそれが当たってしまうのだから。
「放課後デートってまだしてないよね? 特に目的もなくだらだら一緒に帰るってしてみたかったんだよね。いいだろ? どうせキミ、ヒマだろうし」
「ヒマじゃないよ」
どうにか鷹塚さんの拘束から逃れる。
「オレには大事な用事があるんだからね。だから、鷹塚さんに構っていられないんだ」
美月と海未のご飯になる食材を買いに行く。とても大事な用事だ。
「そっか。ぼくより優先させないといけない用事ねぇ」
鷹塚さんの瞳が妖しく輝く。
これ、またロクでも無いこと考えてるぞ……。
あいにく、困っている様子だった先生の手伝いをしたせいで教室を出るのが遅れてしまったから、帰宅部の帰宅ラッシュはすでに過ぎ去ったあと。吹奏楽部の練習の音が遠く響いてくる昇降口には、オレと鷹塚さん以外に人の気配がなくて、誰かに頼ることはできそうもない状況だった。
「キミがぼくに付き合ってくれないなら、しょうがないね。代わりに、キミが大好きな
「な、なんで岩渕さんに。関係ないじゃない」
「あるよ。キミを困らせられる。ぼくはキミのことが好きだからね。好きな人の色んな面を知りたいんだ。幸せなところも、不幸せなところもね」
なんてとんでもない性格をしているんだろう。
こんな人が、仮にも学校一の人気者だなんて信じたくないよ。
「キミはこれからどこへ行ってもいいけど、明日になったら岩渕がぼくの大ファンになってるってこともありえるからね。まあ、ぼくの本命は変わらずキミだけど、遊び相手としては岩渕もアリかな。キミが構ってくれない間の退屈しのぎとしてね」
「岩渕さんに手を出さないで」
「キミは岩渕のことになると急に強気になるね。そういうところも好きだよ。そして岩渕には嫉妬してしまうよね」
一切動じない様子の鷹塚さんがオレの手を握る。
「じゃ、放課後はぼくと過ごすってことで」
「……わかったよ」
「よかった。楽しみだなぁ、キミとのお出かけ。キミと出会ってから、ぼくの人生はキラキラ輝きっぱなしだよ」
「オレはどんよりし始めてるよ……」
「そっか。ぼくを好きになれば、キミの人生も幸せ一直線だっていうのにね」
そしてオレは、鷹塚さんに引っ張られるようにして校舎を出た。
ごめんね、美月。特売でお求めやすい価格になる骨付きチキン、買ってあげられなかったよ……。海未の好きな三連プリンもこれでナシだ。
校舎裏で野良猫に好かれるところを見たときは、動物から好かれるなんて鷹塚さんって根は悪い人じゃないのかもって思ったけど、オレの間違いだった。
ヤなやつ、ヤなやつ! 鷹塚さんは、本当にヤなやつ!
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