第28話 ちょっと歩み寄り

 昼休み。

 オレはいつものようにベンチ代わりの岩に座ってお弁当を食べていて、そしていつものように隣には鷹塚さんがいた。


「あのさ……」

「告白かい?」

「するわけないでしょ……」

「でも、キミらしからぬ神妙な雰囲気だったよ? それなら告白以外ないだろ?」

「あのね、オレ、鷹塚さんにごめんって言わないといけなくて」

「なんだい? ぼくの魅力に気づくのが遅れてすみませんとでも?」

「いや、この前。オレがいないからって、妹たちの面倒見てくれたんだよね? それなのに、お礼言わなくてさ。あのときは、ありがとうね。妹たちも喜んでた」


 鷹塚さんを完全に気を許したわけじゃないけれど、美月と海未に楽しい時間を提供してくれたのは本当のこと。

 だからオレは兄として、お礼をちゃんと言っておかないといけないって思ったんだ。


「なんだ、くだらない。愛の告白かと思って期待したじゃないか」


 なんだよー、くだらないって、と抗議しようとしたけれど、そっぽを向いた鷹塚さんの耳は、ほんの少し赤く染まっているように見えた。


「キミも、変なタイミングで礼を言うのはよしてくれよ。びっくりしてしまうから」

「はいはい、気をつけるね」


 意外と鷹塚さんは、素直じゃない人なのかもしれない。

 あれだけヒトには好き好き言えるのに。

 もしかしたら、それが本心じゃないからなのかもしれないけれど。


「ところでさ、鷹塚さんって、きょうだいはいないって言ってたでしょ? あれ本当?」

「本当さ。ぼくは一人っ子。気楽なもんだよ。血縁同士で骨肉の争いをしなくて済むからね」

「どれだけきょうだいにネガティブなイメージ持ってるの……」


 まあ、仮に鷹塚さんにきょうだいがいたとしたら、優秀な鷹塚さんにコンプレックスを持ってきょうだい仲が上手くいかなくなるというのは、ありえそうな話ではあるけれど。


「それが、どうかしたのかい?」

「いや、そのわりには年下の面倒見るの得意そうだったから」

「あれくらい誰でもできるさ。難しいことじゃないよ」

「鷹塚さん、本当はいい人だったりしない?」

「なっ!」

「どうしてびっくりしてるの?」

「キミが突然デレるからさ」

「デレてないよ。そうだったらいいなって思っただけ」


 食べえ終えたお弁当箱を片付けながら、オレは言う。

 鷹塚さんに変な下心さえなければ、ちょっと困った人ではあるけれど、頼りになるいい人だと思えるのに。


「それならいいんだけどね。キミにはあっさりオトされてほしくないんだ。素直じゃない子をモノにする方が、ずっと楽しいからね。だから聞き分けのいいことを言わないでくれよ。それじゃぼくのファンの女の子と一緒になってしまうからね」

「鷹塚さんは、色々複雑だね。あと、こだわりが強いんだから」


 早口になる鷹塚さんを前にしたとき、ついつい微笑ましい気分になってしまった。


「からかわないでくれよ。キミをからかうのはいいけど、キミはぼくをからかったらダメだ」

「そうだ。デザート代わりにクッキー焼いてきたんだけど、食べる?」

「スルーしないでくれよ。キミのペースに引き込もうとして……まあ、もらうけど」


 オレは、鷹塚さん用にラッピングしたクッキーを手渡す。

 鷹塚さんへのお礼代わりにつくってきたものだ。ありがとうの言葉以外に、オレにできる何かをしたいと思っちゃったんだよね。

 お弁当をたいらげたオレたちは、サクサクとクッキーを口にする。


「甘くてしょっぱいね。不思議な味だ。もちろん美味しいけれど」

「塩も少し混ぜたんだ。甘いのとしょっぱいのは、正反対のようでいて実は相性がいいから。食べる手が止まらなくなっちゃうでしょ?」

「甘いのが欲しくなったら、しょっぱいのが欲しくなって、という無限ループか。ダイエットを考えている女の子からすれば悪魔みたいな存在だね、キミは」

「そのクッキーはカロリーオフにしてないから、食べ過ぎたら普通に太るよ。だからいっぱい食べてね? ほしかったらまた作ってきてあげる」

「ぼくなら太ったって構わないってことかい? ずいぶんいい性格なところを見せてくれるようになったじゃないか」

「まあ、鷹塚さんだし」

「岩渕彩珠が相手なら、もっと丁重に扱うということかい。まあいいさ」


 特に悲しそうにするでもなく、鷹塚さんはラッピングされたクッキーを全部食べ終えた。


「今日も放課後、くっついてくるの?」

「あいにく今日は用事があるのさ。キミをモノにすることが一番大事だけど、軍資金を貯める必要だってあるからね」

「バイトしてたんだ?」

「ぼくは実家が太いから、労働する必要はないんだけどね。家も豪華なマンションだし」


 じゃあリアルで王子様なんだ?

 結構な性格をしているけれど、どこか優雅な感じなのは、お金に困らない環境で育ってきたからなのかな。


「だからぼくが働くのは出会い目的だよ。大人が働いている場所には、学校とは違う出会いがあるからね」


 鷹塚さんは学校の女の子にモテまくりだけど、やっぱり学校の外でも年上の女の人にモテちゃうものなのだろうか?

 まあ、オレがびっくりするような大人なエピソードを話されても困るから、詳しくは聞かないけどさ。

 それに、鷹塚さんに興味津々だって思われるのもイヤだからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る