第43話 見返りを要求される
そして昼休み。
いつものように、オレは鷹塚さんと一緒に校舎裏にいた。
「キミ、今夜ぼくを抱きに来なよ」
唐突なセクハラを食らったものだから、オレは思わず食べているご飯を吹き出しそうになっちゃった。
「な、なんで?」
「だって。ぼくのおかげで岩渕は赤点回避できたんだし、キミだって成績アップしたわけだろ。まあ、ぼくには及ばずだけどさ。だから、その感謝の証として、キミはぼくに体を提供するべきだと思わないかい?」
「……感謝はしてるけど、お礼なら他の方法にしたいよ」
「おかしいなぁ。ぼくはキミにいっぱい尽くしているのに。他の子なら昇天モノのサービスだよ? キミもそろそろ、ぼくのモノになってくれていいんじゃない?」
「それはちょっと……オレ、岩渕さんのことが好きなんだし」
「やれやれ。思ったより手強いんだから、キミは」
膝の上に乗せたお弁当を平らげていく鷹塚さん。
「それなら、せめてぼくをちゃんと褒めてくれよ」
「だから、勉強する場所を貸してくれて、岩渕さんの勉強も見てくれたことは、ありがとうって言ってるじゃない」
「違う。さっきまでキミは、岩渕のことを散々褒めまくってたじゃないか。努力の天才だの、磨けば光る原石だの。いくらキミが岩渕を好きでも、ぼくだって大事な協力者だ。もっとちゃんと褒めるべきじゃないのかい?」
「う、うーん、そうかも……」
別に、鷹塚さんをないがしろにしているわけじゃない。
ちゃんと感謝はしている。
でも、鷹塚さんはよくからかってくるから、素直に褒めにくいっていうか……。
ありがとう以上の言葉を伝えるのは、なんだか恥ずかしい。
「じゃ、じゃあ褒めるけど、笑わないでよ?」
「どうして笑うんだい? キミはぼくを褒めるだけだろ?」
「だってさぁ」
「いいから。ほら、キミがぼくを褒め終わるまで、こうしてやる」
鷹塚さんは、ぼくの膝の上に乗ったお弁当箱を傍らに避けたと思ったら、オレと向き合うかたちで膝に跨ってきた。
「た、鷹塚さん!?」
「キミがもたもたしているのが悪いのさ。さっさと褒めてしまえば、こんなことにはならなかったのにね」
膝から感じる、鷹塚さんの重み。
長身のせいか細身に見えるけれど、膝を侵食されてしまいそうな確かな重みがある。体重を掛けると、女の子であってもこれほどの重さを感じるものなのだろうか?
それに、膝を通して感じる内ももの感触は柔らかくて、触れているだけで溶けてしまいそうだ。
「ほら、ぼくを褒めてごらんよ。ぼくを嬉しくさせたら、これからシームレスで気持ちいいことが起こるかもしれないよ?」
「い、いや、そんなことしなくていい……です」
つい敬語になってしまう弱いオレ。
この状況から逃れるために、必死で褒めの言葉をひねり出したよ。
もちろん、鷹塚さんに感謝していることは本当だから、ウソにならないように気をつけて。
言葉がポンポン出てくるわけじゃなかったけれど、どれもオレの本心だった。
「――それに、勉強だけじゃないんだよね。鷹塚さんって実は面倒見いいし、人のこと気にしてちゃんとやってくれるから」
スキンシップが過剰なところはあるけれど、不思議と鷹塚さんのことを思い返すと、いい場面が頭に浮かぶことの方が多かった。
「オレ、鷹塚さんと関わって良かったのかもしれない」
だからこそ、そんな言葉がするりと出てきたのだろう。
「鷹塚さんには、いてくれてありがとうって言いたくて――」
突然、跨ったままの鷹塚さんに強く抱き寄せられてしまう。
「た、鷹塚さん!?」
学校内でやるにしては過激なことをしてきたので、流石に咎めようとしたんだけど。
「見るな」
「えっ?」
「顔を見ようとするなと言ったんだ」
「あっ、ごめん……」
いや、待って。オレは何も悪いことなんてしてないよね?
どちらかというと、白昼堂々オレに卑猥なことを仕掛けてくる鷹塚さんの方が悪くない?
釈然としないものを感じながらも、鷹塚さんからは何だか切羽詰まったものを感じて、そのまま放っておくことしかできなかった。
このまま無言だととても気まずいから、話題を変えちゃおう。
「えっと、あの……勉強会のときはお世話になったけど、オレたちあまり片付けないで返っちゃって、迷惑かけてなかった?」
「平気」
「キッチンも好きに使わせてもらっちゃったけど……」
「どうせキミが来たときしかまともに使ってないから」
休日に勉強会をしたときは、昼食をつくるために鷹塚家の豪華キッチンを使わせてもらっていた。
オレの家とは規模が違うハイクオリティなキッチンで料理のモチベーションが上がりに上がって、張り切ってつくったものだ。
「あっ、そうなんだ……」
「細かいことばかり気にするんだ、キミは」
それまでオレの肩に顎を乗せる距離感でくっついていた鷹塚さんが、オレから離れて隣に座り直す。
「代わりにぼくもよく覚えておくことにするよ。キミがぼくに、とても、とても感謝していて、恩義を感じているってね」
「そ、そこまでは言ってないよ……」
「ともかく、岩渕の件で、ぼくはキミの頼みを聞いてあげたんだ。今度は、キミがぼくの言うことをなんでも聞く番だよね?」
「なんでもは無理だけど……オレにできることで、常識的な範囲ならいいけど」
「そうこなくちゃ」
やたらと上機嫌な鷹塚さんは、パーカーのポケットに手を突っ込んでガサゴソし始める。
嫌な予感しかしないなぁ、と思いながらも、オレはこれから鷹塚さんが何をするつもりなのか、見届けることしかできないのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます