第25話 大浴場の怖いうわさ
連休明け。
教室に足を踏み入れると、ニコニコ顔の岩渕さんが寄ってきた。
「この間はありがとね! すっごく助かった!」
「お役に立てたようでなによりだよ」
岩渕さんの嬉しそうな顔を見ていると、合宿のお手伝いへ行って良かったと改めて思えてくる。
まあ、最後の最後でとんでもない乱入者が現れちゃったけれど……。
結局、鷹塚さんは、お風呂場でオレを散々からかったあと、さっさと着替えて帰宅してしまった。
鷹塚さんのことだから、オレの寝床に不法侵入するんじゃないかと不安だったけれど、女バス部員に見つかって面倒事に巻き込まれることを避けたかったのかもしれない。
「葉山くんは本当に優秀なマネージャーだったよ。できれば、これから正式にマネージャーになってもらいたいなぁ、って思っちゃうくらいなんだけど」
「えっと、オレは……」
「だよね。妹さんの心配してたから、無理なお願いだってわかってるよ」
申し訳無さそうな岩渕さん。
岩渕さんから仕事っぷりを認められて、こうしてお願いされるのは至福の極みだけれど、やっぱりオレは妹たちのことだって大事にしないといけないから。
「あっ、でも知ってるー?」
岩渕さんが声を潜めながら距離を近づけてくる。
「どうしたの?」
明るい岩渕さんらしからぬシリアスな雰囲気で、思わずオレまで緊張が伝染してしまう。
「合宿が終わったあとの練習で聞いたんだけど、うちの部の子がね、トイレに行こうとして廊下歩いてるとき、おばけのものらしい奇妙な悲鳴が聞こえたって言ってたの」
「奇妙な悲鳴? な、なにそれ怖い……」
「なんかね、お風呂場の方から聞こえたらしいんだけど、葉山くんってみんなから遅れてお風呂入ってたよね? なんかヤバそうな感じしなかった?」
「あ……」
「え、なんか知ってるの?」
「い、いや、なんでもないよ! うーん、オレがお風呂入ってたときは何も不審なものを見かけなかったけどなぁ」
「そっか。まあ、聞き間違いってこともあるしね。ごめんね、怖がらせちゃって」
「はは、そうだね、怖い話はこれで終わりね」
やがてチャイムが鳴り、途中でコケそうになりながらも、自分の席へと戻っていくオレ。
合宿所のお風呂場から悲鳴……か。
おばけの仕業ねぇ。
それ、たぶん、オレ……。
乱入してきた鷹塚さんに対して、背中以外は洗わせないと断固とした態度を取っていたのだが、フィジカルに勝る鷹塚さんに羽交い締めにされた上で洗体……いや、体を洗われてしまったので、そのときに出た声だろう。それを成仏しきれないお化けの怨嗟の声か何かと勘違いしてしまったのだ。
でも、悲鳴か……悲鳴に聞こえていたのなら、オレの岩渕さんへの想いは守られていたのかな?
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